メニューボタン
IBMiコラム2019.01.24

その31:「2025年の崖」を乗り越えよう

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。突然ですが、かつて「ノストラダムスの大予言」という本が流行ったのを憶えていらっしゃるでしょうか。中世フランスの医師でもあった詩人のノストラダムスが著した、意味不明瞭の、したがって何とでも解釈の余地がある詩集が取り上げられ、それが1999年の世界の滅亡を予言しているのではないか、という世間の恐怖を煽るような見解を述べたものです。唐突に結論付けられているわけではなくて、いくつか詩の文言と歴史的事実とが取り上げられて、これまでの予言の正しさと解釈の妥当性が「検証」されていました。もちろん科学的には取り上げるに値しないとか、真面目な反論もあったりして、ちょっとした話題になった程度に過ぎませんでしたが。

コラム01

いずれ不吉な事、特に大惨事が発生する、といった予言はITの世界においても時々見ることができます。ノストラダムスのそれとは違い、解釈の仕方次第でどうとでもなるほどの曖昧さはありません。例えば古くは2000年問題がありました。システムが持つ西暦を下2桁のみで表していると、99年の次の00年は、過去に戻ったと見なされて、アプリケーションはエラーになってしまいます。年号桁数を本来の4桁にするよう修正しなければならない、一斉に改修するとどこかでエラーが発生して社会インフラに影響が及んだら大変な事になる、という危機が取沙汰されました。年末年始は万一に備えてIBMも24時間即応体制をとりましたが、幸いにも目立ったトラブルは無かったようです。

今回のコラムのタイトルにある「2025年の崖」という言葉は、どこかの IT 会社でもマスコミではなく、経済産業省というカタいお役所から出ている、という点が問題の根深さを示唆しているように思います。単なる話題作りや何かの需要を作り出すために、危機感を煽ろうとしているのではない、というわけです。

このレポート『 DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~ 』はインターネット上に公開されています。「DX」はデジタルトランスフォメーション、字義どおりにはデジタル化になりますが、ここではAIとかIoT、言い換えるとSoEアプリケーションの活用です。企業の成長や競争力を高める原動力とされるシステムです。「崖」とは2025年以降には年間最大12兆円もの経済損失が生じる危機的状況を指しています。原因はレガシーシステム、すなわち老朽化、肥大化・複雑化、ブラックボックス化したシステムにあり、IT予算の約8割がこの維持・運用に投じられている事が原因です。デジタル化が進まないうちに、バージョンが古くなったWindowsやSAP ERP のサポートが打ち切られ、セキュリティやトラブルが相次いでも、対応できないか後手に回るために、巨大な損失が発生してしまいます。さらに国際市場における競争力弱体化を招くとしたら、規模は計り知れないものになりそうです。

コラム02

システムのブラックボックス化は、何故発生するのでしょうか。アプリケーションの寿命が長引く事によって引き起こされる、という見解は一見正しそうですが、正確ではありません。ブラックボックスは保守できない状態に陥ったシステムです。長寿命である事はブラックボックス化を招きやすいのは事実ではありますが、その根幹にはつぎはぎだらけのシステムである事、という要因があります。販売管理と会計はそれぞれに Windows サーバーを用意してパッケージを利用、データベース、Web アプリケーション・サーバー、外部とのデータ交換、ジョブ管理などに個別の専用サーバーがあり、さらに複数台による負荷分散の仕組みやバックアップ機まであったりして、複雑にネットワーク化されているかもしれません。これに加えてOSバージョンやサービスパックのレベルがまちまちだったりすると、いつも何かのアップグレードを準備・計画しなければならず、日常の保守・運用だけで手一杯、エンドユーザーにはとても手に負えなくなる事は想像に難くありません。

ブラックボックス化はIT要員の人口動向にも関わりがあるようです。経産省のレポートはこの点に関して、IPA (Information-technology Promotion Agency, Japan : 独立行政法人情報処理推進機構)による「IT人材白書2017」のページ13を参照しています。IT企業とユーザー企業(白書上は「それ以外の企業」と表記)に存在するIT人材の割合が国別に示されています。日本と米国が両極端の傾向を示しているのは興味深いところです。まとめると以下のようになります。

IT企業人数と割合ユーザー企業人数と割合IT人材合計数
日本752,600人 /72.0%292,600人 /28.0%1,045,200人
米国1,453,300人 /34.6%2,741,810人 /65.4%4,195,110人

日本は全IT人材の72.0%がIT企業、米国は同じく65.4%がユーザー企業に偏在しています。米国ではIT要件を自社内で賄うための要員を抱えるのに対して、日本は外部に委託する傾向があります。例えば製造業・流通業を生業とする企業は、ITではなくそれぞれの本業に人手を割くべきだ、それ以外の業務は外部委託(アウトソーシング)した方が投資効率が良い、このような事がかつて盛んに主張された時代がありました。ITに求められるのは基幹業務の支援、今流の言葉で言うとSoRに留まるのであれば、大きな変化もなくそれで何とかなるのかも知れません。今やデータ分析やAIなどITを戦略的に活用する事が、すなわち市場の変化に応じた柔軟性を必要とするSoE領域への利用拡大が、企業の成長・競争力に直結する時代です。外部委託割合が高くアプリケーション・ノウハウが社内に蓄積されないと、自力で自社システム機能強化の要件を満足に定義できなくなりますし、トラブル発生時のプログラム修正すらも迅速にはできません。外部業者が多重下請け構造になっていると、「伝言ゲーム化」したコミュニケーションが発生し、問題はさらに深刻化します。ブラックボックスは変化に対応できない硬直化したシステムでもあります。

ついでながら国連の統計データを見ると、2017年の日本の全人口は1億2748万人であるのに対して、米国は3億2446万人ですから、約2.5倍の人口を擁しています。上記表によるとIT人材は約4倍の開きがありますので、米国においてはITに従事する人の割合は日本よりも大きい事がわかります。また、同年の日本のGDP 4兆3831億ドルに対して 米国は18兆366億ドルなので、開きは4.1倍、IT人材の人口比とGDP比がほぼ同じです。これだけの情報をもって因果関係と言うつもりはありませんが、何らかの影響はありそうな気がしますね。

対策はあるのでしょうか。IBM i をうまく活用されているのであれば、少なくともつぎはぎだらけのシステムにする必要は無くなります。OS内にミドルウェアなどあらゆる機能が統合されている、オールインワン型サーバーのメリットです。SoRに加えてSoEアプリケーションも一台のマシン上で稼働できるよう、製品として進化しています。

コラム03

それでもブラックボックス化のリスクを免れるわけではありません。ドキュメントを満足に整備せずにアプリケーションの改修を何度も繰り返せば、プログラム言語が何であれ「スパゲティ化」した状態になる事に変わりはありません。RPGだからブラックボックス化した、といった議論を稀に聞く事がありますが、言語そのものの罪ではありません。JavaでもRPG でもブラックボックス化の可能性は免れません。ただ、Javaの状況を悪くしているのは、バージョン間に互換性がない事です。例えばJavaバージョン5を前提に開発されたアプリケーションがあったとします。コラム執筆時点での最新は、バージョン11です。かつてのプログラムを、この環境上で稼動できるか、となるとまず不可能と考えるべきでしょう。だからと言って、基幹業務アプリケーションをおいそれと見直せるものではありません。仕方ないので、古い環境を手付かずのまま維持するしかありません。Javaのレガシー化です。少なくともRPGであれば、バージョンをアップグレードできないという事は発生しません。

有効で実績が増えつつあるスパゲッティ化対策の一つは、保守性を継続的に維持するためのアプリケーション分析ツール、いわゆる見える化ツールを活用する事です。プログラムの構造を文書化して残し、改修が必要になったらその影響範囲を特定する、といったところが主な目的です。IBM社からはARCAD Observer for IBM i (製品番号 5733-AO1)、他にもReverse Comet i、SS/Tool、Trinity、などありますが、ベル・データは複数製品を実際に動作させて比較検討した結果、その機能の豊富さからX-Analysisを推奨しています。さらにご要望があればプログラムの分析や保守のサービスも提供しています。投資対効果を問われる事がありますが、効果を数値的に測定するのは困難です。改修を繰り返し、スパゲッティ化したプログラム・コードを前にした時に、初めてその価値がわかるのかも知れません。そうなる前に日常的な保守において活用し、是非自力で保守できるようにしていただければと思います。保険のようなものかも知れません。どの製品を選択いただくにせよ、IBM i にとっては「崖」は「段差」であり、ユーザーは普段よりも多少足を高くあげさえすれば簡単に乗り越える事ができるものと思います。

ではまた

サイト内全文検索

著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社パワーシステム製品企画より、ベル・データ株式会社東日本サービス統括部に転籍。日本アイ・ビー・エム在籍時はエバンジェリストとして、IBM i とパワーシステムの優位性をお客様やビジネス・パートナー様に訴求する活動を行うと共に、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わり合いを論じる講座を担当しました。ベル・データ移籍後は、エバンジェリストとしての活動を継続しながら、同社のビジネス力強化にも取り組んでいます。

PAGE TOP