メニューボタン
IBMi海外記事2016.06.09

標的はX印

Prickett Morgan 著

IBMがSystem x X86サーバー事業を Lenovo Group へ売却したからと言って、魔法のように、X86サーバーがPower Systemsの顧客にとって関係のない存在になるというわけではありません。我々の知る限りでは、この事業からの「Big Blue」の撤退は、IBM iショップでのX86ハードウェアの使用に対して大きな影響は出ていないようです。しかし、IBM iの顧客が次のX86アップグレード サイクルで選ぶマシンのブランドは、変わるかもしれません。もっとも、データセンターのX86マシンの主要な供給元となっている、 Hewlett-Packard EnterpriseDellのマシンをすでに使用しているのでなければ、の話ですが。

先週、 Intel は「Broadwell」Xeon E5 v4プロセッサーを発表しました。これらは、世界各地のデータセンターおよびデータ クロゼットの主力コンピューターとなっている2ソケット サーバー向けの製品です。2ソケット サーバーは、IBMにとってはPower8および後続のチップの普及を図るうえでの主要ターゲットです。Xeonチップ ファミリーは、全世界のサーバー出荷数の約99%、売上高では約80%を占めています。また、Xeon E5ファミリーはIntelのプロセッサーの中でもずば抜けた人気を誇り、おそらく同社の出荷数の85%を占め、売上高では同社のデータセンターにおけるCPU収益に匹敵するほどかもしれません。

XeonチップのBroadwellファミリーでIntelは、製品ラインを14nmのウエハー ベーキング プロセスへと移行させています。Broadwellファミリーにはすでに、時にFacebookのようなハイパースケーラーからの支持を集める、シングルソケット マイクロサーバー向けのローエンドのXeon Dプロセッサーがあり、今年中には、4ソケット以上のマシンでビッグ データベースおよび解析エンジンとして使用されるハイエンドのXeon E7プロセッサーが加わる予定です。プロセスのシュリンクを行うたびにIntelでは、パフォーマンスの向上のためにプロセッサーのマイクロアーキテクチャを改良するとともに、スループットの向上を図ってチップにプロセッシング コアおよびL3キャッシュを追加しています。

IBMは今年中にPower8+チップへのアップグレードを行う予定です。IBMでは、伝統的に、Power4+、Power5+、Power6+、およびPower7+チップにおいて、トランジスタのプロセスのシュリンクを行ってきたため、Power8+でもそうなると考えることは自然なことかもしれません。しかし、Power8+でプロセスのシュリンクが行われるかどうかはわからないため、Power8からPower8+へのアップグレードによるパフォーマンスの向上は、比較的小さいかもしれません。Power8+では、マイクロアーキテクチャの機能強化が期待されるとともに、 NvidiaのNVLinkというプロプライエタリなインターコネクトと、GPU相互およびプロセッサーのリンク機能との統合がPower8+チップにもたらされることが期待されます。Power8チップはIBM自家製の22nmプロセスを使用して作られましたが、それらは現在、Globalfoundries社の配下にあります。同社は、2014年後半にIBMが、かつての Advanced Micro Devices ファウンドリー オペレーション社にマイクロエレクトロニクス事業を売却したとき以降、IBMのチップ ファブ パートナーとなっています。Globalfoundries社が期待通りに14nmプロセスを用意できるかどうかはわかりませんが、幸運と努力が重なり、そのファブが14nmトランジスタを使ってPower8+チップを製造できるのであれば、そうすべきよい時期と言えるでしょう。データセンターにおけるIntelの勢いは止まらない中、IBMがPowerチップで立ち向かっていきたいのであれば、チップ製造で肩を並べなければなりませんし、チップ設計で優れていなければなりません。IBMおよびIBMのOpenPowerパートナーは、IntelがXeon E5およびXeon E7で提供するのと同程度のパフォーマンスおよびスループットの向上を示さなければなりません。シンプルな話です。

Power8+のプランがどのようなものになるかについては、わかり次第、お知らせするつもりです。現時点ではロードマップが曖昧であり、話が複雑になってしまいます。 ここで言えるのは、14nmプロセスのランプアップが厳しい状況であるにもかかわらず、Intelは、PC、ラップトップ、およびタブレット向けの比較的小型のCoreプロセッサーから、サーバー向けのより大型のプロセッサーへプロセスを移行できているところを見ると、十分に良い歩留まりを得られるようになっているということです。Broadwell Xeon E5は、実際は1つのチップではなく、3つの異なるチップです。1つのダイ上の4~22コアの範囲のパフォーマンスを提供し、先行の「Haswell」Xeon E5 v3チップに比べて、およそ20%~30%スループットが向上しています。「Haswell」Xeon E5 v3チップは、2014年9月に発表され、ここ約1年で売り上げを伸ばしたIntelの主力チップです。

この新しいBroadwell XeonE5の仕様等の詳細については、 「The Next Platform」に筆者が投稿した記事を参照してください。その記事の中では、エントリーおよびミッドレンジ ハードウェア向け市場との関連においてBroadwell Xeonについて概説し、Broadwell Xeon E5プロセッサーが投入された今、IntelがPower Systemsとの市場勢力図をどう見ているかについて少し述べています。

Broadwellチップのコアは、本質的にはHaswellチップのコアと同じですが、多くの改造が施されており、Broadwellを採用したシステムでは、サーバー仮想化をよりサポートしやすくなっており、複雑な数理計算をより効率的に(クロック サイクルと発熱の両面で)行え、マシン上で実行中の複数のワークロードに対するセキュリティおよび分離機能を提供できるようになっています。おそらくさらに重要なことに、Intel、Hewlett-Packard Enterprise、およびDellのエグゼクティブたちによると、結果として生まれるシステムは、価格の面では数%の値上げになるかもしれないものの、それを上回るパフォーマンスを提供するとのことです。そのため、WindowsおよびLinuxシステムを稼働しているX86システムへ出費する見返りは、少し改善しそうであり、既存のPower8マシンおよび今後のPower8+マシンにはいっそう強いプレッシャーとなりそうです。

この10年間のXeonプロセッサー開発について興味深いことは、それらのチップの精巧さのレベルです。これらのプロセッサーは、IBMがこれまでに世に送り出したどの製品にも劣らない同じくらい精巧であり、それらが示しているのは、優れた製造力を活用してシングルスレッドおよびマルチコアの両方のスループットでXeonを成長曲線上に保ち続けさせる、Intelの並々ならぬ優れた手腕にほかなりません。しかし、概して言えば、コア当たりの価格は、Xeon E5ラインに費用が掛かることもあり、最近は横ばい状態になっています。このことは、IBMが商談を勝ち取りたいなら、今が、Powerチップを携えて参入し攻勢をかけるチャンスだということを意味しています。また、Intelはチップ プロセスの改良のペースを少し緩めています。まず、1回改良したマイクロアーキテクチャでチップ プロセスを進化させ、次に、確立されたプロセス上に新しいマイクロアーキテクチャを投入する(そうすることでリスクを減らす)という、2拍子の「チクタク」リズムから、2回のマイクロアーキテクチャの改良を行ったプロセス上に3つの世代のチップを載せる、「チクタクタク」のリズムへと移行したのです。やはり、IBMが巻返しを図り、そこに踏み止まれるチャンスがあるわけです。
私はチャンスがあると言いましたが、IBMが要望しなければならないし、Globalfoundries社が実現しなければなりません。

大不況以降のIntelのサーバー チップの変化は目覚ましいものがあります。ちなみに、この時期には、自ら招いた傷からのAMDのOpteronラインの内部崩壊や、2009年3月には、Opteronにおける最善のアイデアのいくつかを、Intelが基本的に模倣したという「Nehalem」 Xeonの発表もありました。また、サーバー、スイッチ、およびストレージ向けのチップ、チップセット、マザーボードなどのコンポーネントの販売を行う、同社のデータ センター グループが、2015年に売上高160億ドル、営業利益78億ドルを記録したことは少しも不思議ではありません。参考までに言えば、この売上高は、1980年代後期にIBMがSystem/390メインフレームビジネスから生み出していた売上高と同規模と言えます。

Intelは、チクタクメソッドを活用して、整数および浮動小数点両方のワークロードでの、Xeonコアのロ―スループットを向上させ続けるとともに、ダイ上のコア数を増やすことでチップ全体でのスループットを大幅に高め続けてきました。仮に、熱力学の法則を止めることができ、今の時点までに10GHzや20GHzのプロセッサーを作り出すことができていたとしたら、どれほど素晴らしいことだったでしょうか。ソフトウェア エンジニアにとっては特にそうでしょう。しかし、現実には、これまでのところはムーアの法則どおりに可能になった、ますます増え続けるトランジスタを活用する道を歩んできました。IBMでは、デュアルコアPower4チップを発表した2001年から、Power Systemsラインを横断する形で12コアPower8を発表した2014年の間に、同じようなことを行っています。Intelは2009年にNehalem Xeon 5500でXeonのアーキテクチャを整理し、ダイに4つのコアを配置し、複数のCPUをリンクさせるための高性能なインターコネクト機能や、チップをさらに強力にさせる新しいL3キャッシュ構造を追加しました。さらに重要なことは、スケーリング可能なアーキテクチャが与えたられたことでした。

ベースラインとしてXeon 5400プロセッサーおよびそれらの「Penryn」コア デザインから始まり、2009年以降、Intelは、プロセッサーの命令ストリームおよびキャッシュ構造に対する数え切れない回数の改良により、コアのシングルスレッドでの性能を約45%向上させてきました。これは先週発表のBroadwellコアに至るまで続いています。Nehalemが最大で12%、続いて「Sandy Bridge」および「Haswell」がそれぞれ10%と10.5%、性能が向上しています。Broadwellコアでの改良では、約5.5%性能が向上し、2017年に予定されている「Skylake」Xeonsでは、クロックあたりの命令実行数(チップ用語でIPC)で大幅な向上が見込まれています。

また、コア数も、Nehalem Xeon 5500で4コア、「Westmere」Xeon 5600で6コア、Sandy Bridge Xeon E5 v1で8コア、Ivy Bridge Xeon E5 v2で12コア、Haswell Xeon E5 v3で18コア、Broadwell Xeon E5 v4で22コアというように、一定のペースを保っていました(一番大きいBroadwellダイには実際には24コア搭載されていますが、歩留りの向上のためIntelでは、問題のないコアとして22コアだけをカウントしています。たまたま23コアまたは24コアが問題なく動いたとしたら、ハイパースケーラーたちは、鱒がカゲロウをくわえるように、それらのコアに飛びつくでしょう)。IPCの向上は過去7年で1.5倍、パラレル スループットの向上は5.5倍です。クロック周波数は少し下がっているので、Xeonラインのパフォーマンスの向上は、おそらく6倍程度となるでしょう。

私の計算では、L3キャッシュ55MB、2.2GHzで動作するトップビンの22コアBroadwell Xeon E5 v4チップは、ベースラインのL3キャッシュ8MB、2.53GHzで動作する4コアのNehalem Xeon E5540の6.34倍の性能となります。Nehalem E5540の価格は744ドルでした。Intelではトップビンの部分の価格を公開していませんが、1,000ユニット トレイで定価購入するとすれば、4,100ドル前後になるのではないかと思われ、これをXeon E5540の性能との性能比で割ると、1ユニット当たり約$650ということになります。Broadwell Xeon E5ラインの、より小さい方のチップは、ベンチマークとして私が選んだベースラインのNehalem E5540の3.5倍~5倍程度の性能を示し、容量は1ユニット当たり30%~50%安い費用で提供されることになります(ドルのインフレ調節は行っていません)。
最新のXeonsとほぼ同じタイムフレームである、IBMのPower6~Power8世代では、ベアの小売向けのPowerプロセッサーの価格設定がわからないため、同じような比較は行えません。

Intelの興隆は、エンジニアリングが量の経済に出会うことによって生まれたものです。また、率直に言えば、AMDがこの7年間、Intelに対してプレッシャーを与えつづけることができていたとすれば、価格性能比における競争はさらに激しくなっていたことでしょう。SparcはXeonにとって大した脅威ではありませんし、これまでのところ、新興のさまざまなARMサーバー チップも同様です。また、Powerチップはある意味でちょっとした脅威ではあるものの、IBMは、目標として掲げた、サーバー市場の10%~20%のシェア獲得を実現するためには、大きな商談をいくつも勝ち取っていかなければなりません。近頃のデータセンターにおけるIntelの勢いを目の当たりにすると、どうやったら実現できるか非常にわかりづらいところです。しかし、もっと変わったことも実現したのですから。Intelがデスクトップ分野から飛び降りてデータセンター分野を支配するまでになったように。

今こそ、IBMおよびIBMのOpenPowerパートナーがIntelに戦いを仕掛ける時期なのです。そしてデータセンターには、標的を表す大きな赤いX印(big red X)が付いています。来週のOpenPower Summitでは、IBMおよびそのパートナーと、こんな話をする予定です。

あわせて読みたい記事

PAGE TOP