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IBMi海外記事2019.02.28

PASEとILE、オープンソースに最適なのはどちらか

Alex Woodie 著

オープンソースがイノベーションの牽引役として登場して20年になり、技術革新を大いに促進してきました。プロプライエタリーなIBM i プラットフォームも、こうした動向から恩恵を受けてきましたが、これはPASEランタイムでLinuxアプリケーションを実行できることによるところが大きいと言えます。しかし、IBM i コミュニティの一部のメンバーは、オープンソース イノベーションという果実の甘味を、他のプラットフォームほどには味わえていないことを気に病んでいるようです。

Linuxはオープンソース ソフトウェアで初めてブレイクした大スターでした。そのため、オープンソース方式で開発されたソフトウェアの大部分が、Linuxオペレーティング システムと、Apache Web Server、MySQLデータベース、およびPHPといった関連するオープンソース コンポーネント(いわゆるLAMPスタック)上で稼働するように設計されていることは驚くことではありません(もっとも、PostgresおよびMariaDBデータベースや、Perl、Python、Node.jsなどの言語を代わりに入れて、響きのよい別の頭文字略語にすることもできます)。

IBM i オペレーティング システムは、IBMが何年も前にOS/400に導入したAIXランタイムであるPASEを通じてLinuxアプリケーションを実行することができます。PASE上でLinuxアプリケーションを稼働させるには、それほど大仕事ではないものの、まずはAIXへ移植する必要があります。AIXと同様、LinuxはUnixのバリアントであるからです。

こうした移植作業の多くはIBMが行いますが、IBMは、様々なオープンソース ツール、言語、およびフレームワークを、PASEを介してIBM i に導入することを最優先にしてきました(何らかの理由で、PASEを介して完全な形でこのプラットフォームに導入されたアプリケーションの数は多くはありません)。

オープンソース イノベーションの大きな波がIBM i インストール ベースに入って来られたのは、結局のところ、PASEがあったからでした。PASEは、IBM i がPHP、Python、Git、Node.JSを実行できるようにする手段であり、MySQLおよびMariaDBデータベースを実行できるようにする手段なのです。IBMは、Java仮想マシン(JVM)およびVIOS(みんなのお気に入りのVirtual I/O Server、外部SANアレイとIBM iマシンとの間でのデータの流れを管理)など、重要なシステム ソフトウェア コンポーネントをPASEで実行することに躍起になってきました。

IBMは、こうしたオープンソース ソフトウェア イノベーションの多くを、2015年導入の5733-OPSと呼ばれるライセンス プログラムで製品化しました。最終的には、5733-OPS製品は38のオプションにまで増加しましたが、IBM i のショップにとって、IBM i 式の配布方式(すなわちPTF)は管理しやすいものではありませんでした。特に、オープンソースソフトウェアをきちんと展開するためには、すべての依存関係が適合することが保証される必要がある、となると管理するのはさらに大変です。

そのため、2018年の始めにIBMは、RPM(Red Hat Package Manager)およびYumに依拠する、オープンソース製品の新たな配布方式を導入しました。新たなYumおよびRPM方式では、Access Client Solutions(ACL)でGUIからオープンソース コンポーネントをダウンロードすることも可能です。RPMおよびYumに対する当初の反響は非常に肯定的でした。IBM i ChampionのLiam Allan氏は、Yumは「おそらくオペレーティング システムの救世主となる」と述べています。

つまり、PASEは、PASEがなかったらおそらくこのプラットフォームに導入されなかっただろう数多くのオープンソース テクノロジーにIBM i を開放したということになります。IBMのオープンソース テクノロジー担当ビジネス アーキテクトであるJesse Gorzinski氏によると、PASEのおかげでIBM i 上で稼働しているパッケージは200を超えるとのことです。それらすべてのソフトウェア製品を、IBM i のネイティブなILE(Integrated Language Environment)開発およびランタイム パラダイムで稼働させることはまったく現実的でない、と彼は述べます。

「簡単に言えば、PASEであれば対応できるオープンソースの量に対応できる技術が、ILEの側にはないというだけのことです」と、以前にGorzinski氏は『IT Jungle』に述べています。「ILEベースのオープンソースに投資することはできます。現に、サードパーティによって作成されたiSeries Pythonがあります。それはある種ネイティブでした。長年にわたって利用されています。そうできることも分かっています。5733-OPSでリリースした多くの機能を、実際にILEにも導入することができました。しかし、提供しているものの量への対応という点から見て、PASEの方がこの開発を行うのにより耐えうる場所であることは実にはっきりしています。」

しかし、PASEアプローチにすべての人が満足しているわけではありません。中には、PASEベースのプログラムは、IBM i プラットフォームが提供できる真の便益を十分に活用できていないと言う人もいます。オープンソース イノベーションへのPASEアプローチに対する最も声高な反対者の1人は、Shield Advanced Solutions社のプレジデントで、先週のFallCOMMONショーで発表された新たなオープンソースERPアプリケーションの中心的な開発者でもあるChris Hird氏です。

「誰もがみなPASEを推しているという状況は、どこかおかしいように思えます。IBM i がいつも市場に訴えている得意としているものをまったく使用していないからです」とHird氏は述べています。「IBM i の大きな強みは統合性のはずです。」

TEMBO Tech Lab社のMarinus van Sandwyke氏とともにHird氏が開発の先頭に立った新たなintERPriseERPパッケージは、成功を収めているIBM i ベースのERPパッケージの背後にSynon 2Eモデルを置き、フリーフォームILE RPG IVコードとしてそれらを再生成することによって作成されたものです。Db2 for i上でSQLベースのデータベースと組み合わせて、参照制約およびネイティブJSON出力を適用した場合(すべてMVC(モデル ビュー コントローラー)アーキテクチャー内で管理される)、このERPパッケージは、IBM i で利用可能な最も先進的な技術が実装されたシステムとなるとも言えるでしょう。

intERPriseは、最新のオープンソース プロジェクトの他のすべての目玉となる機能(たとえばApache 2ライセンスやGitHubコード レポジトリ)を備えていますが、Hird氏がIBM i 愛好家の心に響くことを期待しているのは、実はネイティブなILEの側面なのです。

PASEを介してでも、オープンソース ソフトウェアがIBM i に導入されるのは良いことだとHird氏は述べます。「しかし、私見ですが、IBM i で本当に推す必要があるものは、データベースと、IBM言語との統合です」と彼は述べました。「だからこそ、このプロジェクトを始めたのです。」

PASEでのアプリケーション実行に関する問題は、従来のILEプログラム実行のようには実行されないということです。それらのプログラムは一般に、ネイティブなIBM i ライブラリー システムではなく、IFSにコンポーネントを保存するため、PASEのアプリケーション セットアップをトラッキングすることは「悪夢です」とHird氏は以前に述べたことがあります。さらに、管理者は、PASEアプリケーションの稼働状況を確認するのに、WRKACTJOBのような使い慣れたツールを使用できません。このことは、重大なパフォーマンス問題を引き起こしかねません。

IBMがintERPpriseを(ついでに言えば、どのネイティブなILEオープンソース アプローチについても)、プロモーションしてくれることは期待していないとHird氏は述べます。なぜなら、それがPASEの持つメッセージを損ねることになりかねないからです。

「彼らにはネイティブとPASEベースとの両方に注意を払えるほど十分な資源はありません」と彼は述べました。「PASEへと向かう移植のために、IBMによって大量の書き直し作業が行われています。しかし、こちら側は、接続してパッケージ マネージャーをダウンロードするだけ、というような簡単なことでは済みません。IBMが前もって多くの仕事を行ってくれるのを待つ必要があります。そして、それには長い間がかかります。」

ILEとPASEとの間のトレードオフは、煎じ詰めれば、質を取るか量を取るか、ということになるでしょう。一方では、PASEを介して数多くのオープンソース パッケージをIBM iに移植できますが、それらのアプリケーションは従来のIBM i アプリケーションのようには稼働しません。他方、IBMが時間を掛ければオープンソース アプリケーションのネイティブILE移植バージョンを作成することもできでしょうし、それについては、IBM i 側の観点から見ても高い質と誰もが認めるだろうと思われます。しかし、IBMが行えるのは、それらのうちのほんのいくつかだけにとどまるはずです。

先日、この点に関してGorzinski氏に話を聞いてみましたが、IBMが重点を置いているのは、依然として量の方であり、近い将来に向けてできるだけ多くのオープンソース パッケージを、PASEを介して送り出すことのようです。

「多くはない時間の中で、200のオープンソース パッケージをPASEで稼働できるようにしてきました。ILEで同じことを行い、これらの同じオープンソース パッケージをILEで稼働させるとしたら、はるかに大きな投資が必要となっていたでしょう」と彼は述べました。「確かに可能なことではありますが、現在の我々の視点からすると、それはまったく意味をなさないのです。PASEがあってオープンソース テクノロジーを実装できているのであり、すでにPASEで手にしているものを十分に活用することで、はるかに大きなビジネス価値を提供することができるのです。そのことこそが、PASEを使用している目的なのですから。」

Gorzinski氏は、PASEベースのアプリケーションの管理を行う際の操作感は、従来のILEアプリケーションとは異なることを認めています。しかし、彼の見たところでは、それは払う価値のある代償だということのようです。

「PASEベースのアプリケーションがプラットフォームのダイナミクスを変えることは間違いありません。なぜなら、PASEで稼働しているものは、使用しているファイル システムも異なれば、セマンティクスも異なり、全般的に物事を行うやりかたも異なるからです」と彼は述べます。「それがプラットフォームの様相を一変させることは間違いないと思います。力学的関係性も大きく変わって行くでしょう。」

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