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IBMi海外記事2019.09.12

IBMがRed Hatに対して不干渉の姿勢をとる理由

Timothy Prickett Morgan 著

IBMは十分に長い間、ITビジネス界に居続けてきたおかげで、重複していたり、しばしば互換性がなかったりする機能を持つ製品の個別のポートフォリオを、何の苦もなく保守管理しているようです。1969年に登場したSystem/3は、1964年に発表され、企業コンピューティングの基盤を築き、その先導役となったSystem/360より5年歴史が浅いだけです。両方のスタイルのマシンは、今日も、IBM i on Power SystemsプラットフォームおよびSystem zとして存在し続けています。

先週、340億ドルのRed Hatの買収が完了しましたが、それら2つのレガシー製品はどちらも存在が脅かされることはなさそうであり、IBMには、IBM i およびSystem zラインに実装されるレガシーなオペレーティング システムおよびミドルウェア スタックの開発を止める方向へと向かう意向はまったくなさそうです。

IBMのクラウドおよびコグニティブ ソフトウェア製品担当シニア バイスプレジデントのArvind Krishna氏が買収完了を受けてのカンファレンス コールで率直に述べたように、IBMの顧客が期待していることは、IBMが、IBM i 、AIX、およびSystem zラインのオペレーティング システム、ミドルウェア、ストレージ、データベース、およびセキュリティ ソフトウェアを維持することであり、これこそまさにIBMが行おうとしていることに他なりません。Krisha氏は、IBMとRed Hatとの間での製品の重複は5%ほどに過ぎないと見ているようです(この点については昨年10月の買収発表の際に小誌でも長々と述べました)。それに付け加えて、Red HatおよびIBMプラットフォームの両方を使用している多くのエンタープライズ アカウントにおいては、企業は、あるケースではJBossを使用し、あるケースではWebSphereを使用するというように、様々な目的のために両方のソフトウェア セットに投資していると述べています。

Red Hat│IBM

我々の見るところでは、製品の重複は、5%よりはるかに多いのではないかと思います。特に、顧客数ではなく収益源ベースで細かく分析してみるとそう思えます。しかし、IBMが自社製コードと、Red Hatによってオープンソース コミュニティを通じて作成されたコードの両方のサポートについて中立を保つ限り、そのことは重要ではありません。今のところ、IBMはRed Hatを「ソフトウェア界のスイス」にしたいと考えているようです。それはちょうど、EMC社が10数年前にサーバー仮想化の巨人VMware社を買収した後に行ったことと同じであり、数年前にEMC社とVMware社を買収したDell社が買収以降に行ってきたことと同じです。長期的に見れば、そうしたレガシーIBMプラットフォームの開発は、Red Hatスタックがより深く企業に浸透してゆくにつれて、減速してゆくのかもしれません。けれども、Red Hatスタックの普及拡大は、IBMが何と言おうと、340億ドルに加えてさらにいくばくかを回収するために当てにしていることでもあります。そして、これらのプラットフォームの相対的な費用も、分散し続けるのは間違いないでしょう。メインフレーム プラットフォームが、X86プラットフォーム上のLinuxと同じくらい安価だと言う人はいないでしょうが、その一方では、Linuxはメインフレームのショップに対して多大な価値をもたらしており、21世紀におけるキャパシティーに対する出費の主要な牽引役となっています。IBMは、20年以上の間、Power Systemsラインにおいて同じようなLinux効果を期待してきましたが、Linuxはようやくそのラインで普及しつつあるところです。

あれほど高額な買収にもかかわらず、このような不干渉の姿勢を取る理由は単純なことです。VMwareやRed Hatはどちらも、どの特定のプラットフォームに対しても中立であることに価値があるということです。IBMが欲しいのは、Enterprise Linuxオペレーティング システム、OpenShiftコンテナシステム、OpenStackクラウド コントローラー、JBossアプリケーション サーバー、Cephブロックおよびオブジェクト ストレージなど、Red Hatの多種多様なスタック要素なのかもしれませんが、IBMは、Red Hatの広大なパートナー ネットワークがこれまで行ってきたビジネスを妨げることはできません。そうしたビジネスは、Linuxスタックの販売でIBMを含めお互いに競合し合うことになります。そうしないとすれば、Red Hatビジネスの価値は損なわれてしまうでしょう。それはちょうど、Dellが自社のPowerEdgeサーバーに限定してVMwareの仮想化およびクラウド ソフトウェアを乗せていたとしたら、VMwareビジネスの価値は損なわれてしまうだろう、というのと同じです。

「Unixの時代に抱えていた問題は、これはある程度はLinuxの時代も同じですが、企業がこうしたサイロ・アプローチをとっていたことでした」と、Red Hat社の製品およびテクノロジー担当社長のPaul Cormier氏は説明します。先週、買収完了の際にKrishna氏とともに行ったカンファレンス コールでの発言です。「サイロ・アプローチはここでは役に立たないし、技術を拡張できないということを、両社とも認めていると私は思います。両社の独立性は、IBMの競合者となるかもしれない弊社のパートナーに、平等なビジネス チャンスが保証されるようにするためには必要不可欠なものなのです。」

当然、こういう疑問が生じます。どうしてIBMはRed Hatに対して340億ドルも支払ったのか。

この点については以前にも述べましたが、大事なので繰り返します。IBM独自のソフトウェア プラットフォームは、ここ数四半期のIBM iおよびLinux on Power Systemsの例を除けば、安定的ないしは衰退傾向といったところです。しかし、数十年間のトレンドラインを平均化してみれば、IBMのレガシー プラットフォーム(IBM i とz/OSにAIXを加えます)は、大幅な縮小傾向にあると言えます(今のところ縮小幅は少なくなっているにしても)。1990年代と2000年代の減り方は凄まじいものがありました。そして、頑固な顧客が残されたというのが現状です。Power SystemsおよびSystem zラインは、今なお十分に保守し、拡張してゆくのに値するシステムですが、それは今後も、長年にわたって変わらないでしょう。けれども、IBMにとって本当に必要なのは、ウォール街や顧客に向けての、ハイブリッド クラウド ジャーニーに関する説得力のある筋の通ったストーリーなのです。そこで、IBMにそうしたストーリーのみならず、非常に大きなオープンソースの信頼性をもたらすのがRed Hatということになるわけです。340億ドルあれば、IBM独自のプラットフォームの構築や推進に寄与する多くのことを行うことができたかもしれない、とも言えるかもしれませんが、一度、瓶から出たLinuxという魔物を瓶の中に戻すことはできないのです。Microsoftも、成長軌道にあるオペレーティング システム プラットフォームがLinuxのみであること、そしてハイパースケーラーやクラウド ビルダーの巨大なインフラストラクチャーの基盤を加えれば、Linuxが、世界中でインストールされているサーバーの50%以上を占めていることを知っています。これは、1990年代にはUnixが(ひとまとまりとして)占め、2000年代にはWindowsが占めていたポジションであり、今、そのポジションにあるのがLinuxというわけです。オープンかつコラボレーティブな形で生み出されたものであることからすると、永遠にそのポジションを保ち続けることになるのかもしれません。Linuxは、今ではイーサネット同様、失くすことができない存在になっています。新しいアイデアが生まれたら、Linuxに合うように適応され、Linuxのために採用されるのです。

大事なのは、Red Hatは1四半期で約20%成長していますが、25%または30%になるまでIBMがその成長を後押しすることができるとすれば、おそらく2023年か2024年までには、ソフトウェアおよびクラウド部門の収益として、買収資金の340億ドルをまるまる回収できるかもしれないということです。これは悪くない賭けです。特に、過去10年間、ほぼ安定しており、買収後の1年目にはフリー キャッシュ フローと粗利益が増加し、2年目には1株当り利益が増加するソフトウェア会社にとってはそう言えます。Krishna氏はそう説明します。

IBMが目を向けているのは、かなり長期的な目標です。すなわち、企業がワークロードやシステムのモダナイゼーションという巨大な波を乗り越えようとするのに伴う1兆ドルのビジネス チャンスです。「ハイブリッド クラウドが引き出す価値はとてつもなく大きなものであり、まだ始まっていない80%分のクラウド ジャーニーに乗り出す準備ができているクライアントが進むべき道は、まさにこれだと思います」とKrishna氏は説明します。「今述べた通りで間違いはなく、これまでに始められているのは20%に過ぎないのです。すべてのワークロードの行き先は100%、パブリック クラウドしかないと言う人もいますが、それは正確でないと思います。10年経って、移行したワークロードが20%だけだとすると、プライベートやオンプレミスに残ることになるワークロードは大量にあるため、さまざまなサイロを並べても対処することはできません。それとは対照的に、これらすべての環境で機能し、それらすべてにまたがるスキルの代替可能性を備える方策が必要になります。」

より良い知らせは、IBMがようやくIBM i とAIXを交えたハイブリッドなストーリーを語ったということであり、Linuxについてはどうでもいいと言うのなら、どうでもいいままで居続けることができるようになったことです。もうひとつの良い知らせは、競合者も皆Linuxを推している中、IBMはRed Hatを通じてLinuxを強く推すことが利益につながることになるということです。IBMによる買収の発表後、その四半期のRed Hatの収益が増加したように、SUSE Linuxも収益を伸ばすことになるのではないかと思います。代替製品を求める企業もあるからです。もっとも、SUSE Linuxスタックは、Red Hatのスタックほどには広くも深くも普及していないのが現状です。Red Hatはおそらく、世界中にRHELおよびCentOSクローンが稼動する400万台のサーバー ベースを抱えています。これはサーバー ベース全体の約10%に相当します。そして、独自のLinuxを作成している最大手のハイパースケーラーおよびクラウド ビルダーが、おそらく合わせて別の20%を占めています。さらに、別のディストリビューション(小型)を稼働していたり、サービス プロバイダー、通信事業者、エンタープライズ ショップ、およびスーパーコンピューティング センター(超大型)でセルフサポートされていたりする、また別の20%以上のベースがあります。

さしあたり、そしておそらく長い間、Red Hatはそのブランド、その機能と製品、その販売チームをそのまま維持することになりそうです。IBMが干渉することはまったくありません。正確に言えば、Red Hat製品開発チームには、製品ロードマップおよび開発アプローチを決める裁量権が与えられ、両社の2つのパートナー プログラムも別々のままです。けれどもIBMは、顧客にIBMともRed Hatとも手を結ぶよう促しています。Red Hatの営業部門はIBMのソフトウェア製品の販売を行わず、IBM製品の販売で手数料や報酬を手にすることもありません。これによってRed Hat営業チームの独立性は保たれます。もちろん、RHELが今後Power SystemsおよびSystem zの推奨Linuxとなることは間違いないでしょう。けれども、それは新たに生じる状況というわけでありません。

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