メニューボタン
IBMi海外記事2022.08.09

POWERUpで浮かび上がったIBM i Merlinについての詳細情報

Alex Woodie 著

IBMが先月のIBM i 7.5のリリースとともに発表したDevOpsオファリングであるIBM i Merlinの全体像が徐々に明らかにされつつあるようです。先週、開催されたCOMMONの年次POWERUpカンファレンスで明らかになった最も興味深いことは、Merlinは、必ずしもアプリケーション開発に限られるものではなく、今後、このプラットフォームに様々な機能を提供するための媒体になるということでした。

IBM i Modernization Engine for Lifecycle Integration(すなわちMerlin)は、 IBMからの新規オファリングです。このソフトウェアは、最初のバージョンとしてリリースされたものであり、ユーザーが、ブラウザベースの統合開発環境(IDE)であるVS Codeのオープンソース バージョンを通じて、ILE言語でIBM i アプリケーションを開発することを可能にします。

具体的には、Merlinでは、 Microsoft社オリジナルのVS Codeのオープンソース バージョンである Eclipse Theiaと、Kubernetes環境でIDEの作成、管理、およびオーケストレーションを行うワークプレイス サーバーを提供する Eclipse Cheが使用されています。

それらのオープンソース コンポーネントに加えて、Merlinには、 ARCAD Software社製のソフトウェアが組み込まれています。ARCAD社からMerlinに提供されたものとしては、Transformerと呼ばれるRPG変換ツール(IBMによってConverterへと名称変更)、ARCAD社の影響分析ツールのObserver、 Git コード リポジトリとIBM i を統合するためのARCAD社のソフトウェア、およびARCAD社のビルド管理ソフトウェアがあり、4つの領域に及んでいます。IBMは、独自の統合コードを開発して、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デプロイメント)パイプラインを作成および実行するためのオープンソース プロジェクトである Jenkinsのサポートを組み込みました。これは、現在のMerlinで、大きな注目を集めている機能です。

IBM i のショップに問題を引き起こしかねない、Merlinの大きな技術的要件の1つは、Linux上で稼働するKubernetesベースのコンテナ管理システムである、 Red Hat OpenShiftです。IBM i 担当CTO兼チーフ アーキテクトのSteve Will氏は、OpenShiftがIBM i 顧客にいくつかの問題をもたらすことになるのは間違いないと述べます。

「社内に使い方を知っている人員はいない、というクライアントがほとんどのようです」と、先週、ニューオーリンズで開催されたPOWERUp 2022カンファレンスで行った、Merlinに関する基調講演でWill氏は述べています。「そのことが最初の大きなつまずきとなるでしょう。その点は率直に認めます。」

IBMには、IBM i の人員がOpenShiftを早く習得できるようにするにはどうしたらよいかに関して、いくつか考えがあるとWill氏は述べます(たとえば、トレーニング セッションの実施など)。

「私たちが協働したいくつかのパートナー企業は、トレーニング セッションを受講して、早く習得する方法に関する情報を学びました。そのため、この問題の解決に役立てることができると思います」とWill氏は述べています。「これは、ずっと昔にWindows環境をインストールする方法を学んだのと似ています。何とかなるでしょう。そのやり方以外のことは、あまり多くを知る必要はありません。ただし、学ぶには少し時間が掛かります。」

Merlin
Merlinという名称とMerlinロゴの両方について、「IBM命名およびデザイン警察」に認めてもらうには、IBMロチェスター チームの巧みな立ち回りが必要でした。

また、IBMは、サービスとしてMerlinを提供できる、OpenShiftホスティング環境を構築する可能性についても検討していると、IBMのアプリケーション開発担当ビジネス アーキテクトのTim Rowe氏は述べています。

「どのようにすれば、IBM i コミュニティにとってより簡単な方法でこれが実現可能になるのかということは、私の課題リストに載っている項目の1つです」と、先週のPOWERUpでの、Merlinに関する「Deep Dive」セッションでRowe氏は述べています。「まず、これは万人向けではないかもしれません。その点は十分に承知しています。」

IBM i コミュニティにとってOpenShiftをものにしやすくする可能性のある1つの要因は、OpenShiftがX86環境で稼働できることです。当初、IBMのエグゼクティブたちは、IBM i のショップがPowerサーバー上のLinux区画でOpenShift環境をスピン アップするべき潜在的な理由として、しきりにOpenShift要件をアピールしていましたが、Merlinは、実際、X86サーバーで、Linux上で稼働するOpenShift上で稼働しています。

しかし、OpenShift環境がスピン アップされていれば、ずっと簡単になります。Rowe氏と「Deep Dive」セッションを共にした、ARCAD社DevOpsプロダクト マネージャーのAndrew Clark氏によれば、Merlinのインストールには30分程しか掛からないということです。

「30分で稼働できるようになります」とClark氏は述べます。「OpenShiftは30分足らずです。」

ARCAD社の競合企業の中には、Merlinの製品展開にお呼びが掛からなかったことに不快感を示した企業もあるようです。ARCAD社にはIBMと協働してきた長い歴史があり、同社の製品にはIBMのカタログに載っているものもあるくらいですが、競合企業は、ARCAD社に不当な優位性が与えられた感じがすると述べているそうです。

しかし、IBMは、今後、多くの変更管理およびDevOpsベンダーと協働して、彼らのオファリングをMerlinと統合させる予定だと述べています。さらに、IBMでは、Merlinを、Webベースのアプリケーション開発および運用を越えて他の領域へと拡大展開させようとしてもいます。

「Merlinについてもっと大局的な見地から言えば、作成しようとしているのは、単なるアプリケーションのモダナイゼーション以上のことを行うためのツール スイートだということです」とRowe氏は「Deep Dive」セッションで述べています。「千里の道も一歩から、と言います。他にも、アプリ カタログ、PTF管理、セキュリティ開発、セキュリティ コンプライアンスなど、追加を検討しているものはたくさんあります。また、顧客がシステムやアプリケーション モダナイゼーション ライフスタイル関連の管理を行う際に有用となるオプションについても、利用可能なものが多数あります。」

Will氏によれば、MerlinでのOpenShiftの選択は、今後の機能の提供に向けてのIBMの長期計画の要となる部分だということです。それには、IBMから提供される機能も、ビジネス パートナーから提供される機能も含まれると彼は述べています。

Merlin
IBM i Merlinは、今後、DevOps以外の他の領域もサポートするように拡張されるとIBMは述べています。

「最初は、IBMから提供されるすべての機能がこのフレームワークに組み込まれ、IBMから提供されます」と、IBM i CTOのWill氏は基調講演で述べています。「今後、ある時点でこれを公開します。他の機能を組み込むこともできます。今すぐにというわけではありませんが、そうすることについて検討することができます。」

Will氏は、 次世代アプリケーションを大いに支持してきました。次世代アプリケーションは、モノリシックなアプリケーションのマイクロサービスへの分解、ビジネス ロジックのモジュール化、および通信でのREST APIの使用、などを特徴としています。開発ライフサイクル ツーリングをモダナイズすることは、そうしたプロセスで始める場所として理にかなっていますが、それは出発点に過ぎません。

「そうしたOpenShiftの背後にあるテクノロジーを利用して構築することができたため、拡大の余地を残しつつ、相互のやり取りの方法やそれぞれの見え方に関する必要な一連の標準を備えた大きなプラットフォームを生み出すことができました」と彼は述べています。

Merlinの開発からリリースまでのスケジュールは、IBMの標準からしても非常に短く、約1年半でした。結果として、多少ちぐはぐな形でのリリースとなってしまいました。Merlin IDEは用意できたものの、本番稼働に向けてコードをデバッグするためのデバッガーは用意されませんでした。

Rowe氏によれば、コアとなるデバッガー機能はラボで開発中とのことです。今後数週間から数か月間以内に提供できると彼は述べます。

「デバッガーは修正パックで提供できればと考えています。それほど長い時間は掛からないと思います」とRowe氏は「Deep Dive」セッションで述べています。「準備が整うまではリリースはしません。デバッガーの組み立てや関連する作業に鋭意取り組み中といったところです。コードは機能しています。完成がまだというだけです。」

Rowe氏によれば、夏から秋にかけて、Merlinの修正パックがいくつかリリースされ、そのいずれかにデバッガーが含まれることになるということです。また、IBMは、Merlinのバージョン2にも取り組んでおり、年内にもリリースされることになるかもしれません。どのような機能が追加されるかは、未定のようです。

Merlinの最初のバージョンでは、IBMは大勢のアーリー アダプター(早期採用者)たちの協力を仰ぎました。どのような機能を製品に組み込んで欲しいかについて、コミュニティの声を積極的に取り入れているとWill氏は述べています。

「Merlinを目にしたときに、「75%は、備わっていて欲しいと思っていた機能だが、残りの25%が備わるまでは採用を待とう」と思ったのだとしたら、その25%がどのようなものなのか、ぜひとも教えてもらいたいと思います」とWill氏は述べます。「教えてもらえれば、その25%は、私たちが用意する必要があるのか、ベンダー コミュニティに相談する必要があるのかが分かります。それが分かれば、何とかなるはずです。」

あわせて読みたい記事

PAGE TOP