2018.12.13
Timothy Prickett Morgan著

IBMのRed Hat買収がIBM iへ及ぼす影響

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さてさて、こんなことが起こるとは想像もしていなかったというのが正直なところです。先週日曜日の午後遅く、IBMとRed Hatから発表がありました。IBMが、オープンソース基盤ソフトウェアのサポートの販売において世界で最も成功を収めている企業を340億ドルで買収するというのです。

皮肉なことに、その時私は偶然にも、IBMとRed Hatが、OpenShift Container Platform(DockerとKubernetesのマッシュアップ)を、Linuxを稼働しているPower Systemsマシンへ導入したことを発表した経緯について記事を書いていたところであり、このソフトウェアをIBM iプラットフォームとどのように統合するべきか理解するのは並大抵のことではない、と嘆いていたところでした。いつものように、私なりに考えるところはありました。しかし、IBMの考えはより直接的だったようで、ニュース発表前の金曜日にウォール街がRed Hatに付けた205.3億ドルという市場価格に、62.8%ものプレミアを付けた金額でRed Hatを完全買収する、というものでした。この金額であれば、空からさっと舞い降りてきた競合入札者に、買ったばかりの新品の帽子をかっさらわれるような目に遭うことはなさそうです。

これはIBMが買収につぎ込んだ額としても莫大な額です。1995年にDominoプラットフォームの買収でLotus Development Corp社に支払った額の約10倍であり、Tivoli System社のNetfinityシステム管理ツールで支払った額の46倍、そして、2008年にCognos社のデータ アナリティクス ツールに支払った額の7倍ということになります。IBMの現プレジデント兼CEO兼チェアマンのGinni Rometty氏が初めて手掛けた大型案件である、2002年のPricewaterhouse Coopersのコンサルティング部門の買収には35億ドルの費用が掛かり、それによってIBM Global Servicesの業務は大幅に拡大しました。2003年のRational Software社の買収には、IBMにさらに21億ドルの費用が掛かりました。IBMが2000年以降に行ったすべての大型買収案件を合計しても、あるいはそれに小規模な案件を付け加えたとしても、340億ドルには届かないでしょう。したがって、Red Hatの支払いのために、手持ちのキャッシュをつぎ込み、クレジット ラインを使って借り入れを行い、2020年および2021年には自社株買いを行わないのだとするならば、かなり本気なのだと理解する必要があります。

実際、本気の真剣勝負なのでしょう。Rometty氏は、ITセクター全般にとって一貫性を保ちつつも、IBMを未来へと向かわせることで彼女の永遠の遺産となるような仕事をしなければなりません。それは、IT業界におけるさらにビッグなプレーヤーになるチャンスのある未来でなければならず、子会社の売却や売上低下によって徐々に縮小してゆくような未来であってはならないのです。また、この買収によりIBMは、数多くの競合他社によって販売されているX86サーバーだけでなく、自社のPower SystemsやSystem zサーバー上でも稼働できる、相対的に見て完結性の高いインフラストラクチャー プラットフォームを手にすることになります。

Red HatのEnterprise Linuxは、少なからぬ数のIBM iのショップにとって馴染み深いものであり、また、エンタープライズ市場で圧倒的な優位を誇るLinuxディストリビューションです。RHELを使用している顧客に加え、同社が数年前に買収したCentOSクローンの顧客も合わせれば顧客数は数百万にのぼり、Red Hat Enterprise Linuxはおそらく世界で最もポピュラーなLinuxと言えるでしょう。我々の推測では、RHEを稼働しているマシンは全世界に約200万台あり、おそらくCentOSを稼働しているマシンがもう200万台あるのではないかと思われます。米国におけるGoogle、Amazon、Microsoft(あまり多くない)、Facebook、中国におけるAlibaba、Baidu、Tencent、China Mobileといった世界のスーパー エイトのハイパースケーラーおよびクラウド ビルダーのうちの7社によって使用されている自社製のLinuxインスタンスをすべて数え上げれば、その中には、おそらく、1000万~1200万台を優に超える台数のLinuxサーバーがあり、また、RHELとCentOS以外のLinux上で稼働しているスーパーコンピューティングおよびテクニカル コンピューティングすべてと、やはりRed Hatによる管理でない一部の企業データセンターを合わせると、おそらく100万台くらいになるでしょう。ということは、世界中の4500万台のサーバーのインストールベースの約1/3をLinuxが占めているということになります。そして残りのほとんどはWindows Serverを稼働しています。IBM i、AIX、およびz/OSと、他に思い付くオペレーティング システム(あまりなさそうですが)を稼働している世界中のすべてのサーバーを合計しても、おそらく100万台前後ではないでしょうか。最大に見積もって、です。

今もなお、Microsoftがリッチであるのは、そういうことなのです。

IBMは再びMicrosoftと競合する環境に身を置くことになりました。そのことはおそらく同社の長期的な財務状態にとってはよいことなのでしょう。真新しいシミュレーション、モデリング、機械学習、およびアナリティクス ソフトウェアはどれも、かならずLinuxプラットフォーム上で開発され、マイクロサービス スタイル アプリケーション向けのコンテナー プラットフォームも同じような状況です。そうした最新のワークロード向けにLinux on Power Systemsの販売を増やそうとしているIBMの取り組みについては、我々は熱意を持って見守っていますが、IBMが、自社のマシンに他社のLinuxを乗せることによって、Red Hatが行ってきたタイプのビジネスを構築するのだとしたらどうでしょう。そんなことはあり得ないと思うでしょう。今回の買収の財務面については、『The Next Platform』にて 詳細な分析を行っておりますので、興味をお持ちであれば、このリンクをクリックしてご覧ください。ただし、ここ、IBM i国の住民としてじっくり考えることが必要なのは、この買収がPower Systems全体にとって、そして特にIBM iにとってどういう意味があるかということであり、また、先週の記事で記したように、物事を混乱させることなく、Red HatのスタックをIBMと統合するために、IBMがどのようにしてより良い仕事を行ってくれるかということです。

Rometty氏も、Red Hat社CEOのJim Whitehurst氏も、買収についてのウォール街との電話カンファレンスの際に、両社の製品に重複するところはない、と公に述べているようですが、これは厳密には事実とは言えず、たとえ重複がないとしても、競合があることは確かです。IBMが自社製品を収束させてRed Hat製品を主力に据えようとしているのではないとしても、ネイティブなIBM製品の開発が減速するか、さらには止まってしまう可能性はあるのかもしれません。

いくつかの例を挙げて見てみましょう。私の言いたいことをご理解いただけると思います。

  • Red Hatには、OpenStack Platformと呼ばれる、独自のOpenStackディストリビューションがあり、IBMにはPowerVCと呼ばれる独自のディストリビューションがある
  • Red Hatには、OpenShiftと呼ばれるDockerコンテナー オーケストレーション プラットフォームがあり、IBMにはIBM Cloud Privateがある(先週の記事を参照
  • Red Hatには、仮想マシン レベルで動作し、OpenShiftのコンテナー上へ拡張可能な、Cloud Formsと呼ばれるマルチクラウド管理スタックがある。IBMには、コンテナー向けの新たなIBM Multicloud Managerがあり、長年に渡って販売してきた多くの仮想化管理ツールも多数ある。
  • IBMは、Power Systems上ではIBM iおよびAIXを、System zメインフレーム上ではz/OSおよび他のオペレーティング システムを販売している。Linuxは、昨今の、そしてここ数年のメインフレームでのキャパシティー ベースでの売上の大半を占めるに至っており、Power Systemsでのキャパシティー ベースでの売上でもLinuxはパーセンテージを伸ばしている。これは間接的な競合関係にある(前述のとおり)。
  • Red Hatは、JBoss Javaアプリケーション ミドルウェアを販売しており、売り上げは好調。IBMは、WebSphere Javaアプリケーション ミドルウェアを販売しており、売り上げは好調
  • Red Hatには、Glusterパラレル ファイル システムおよびCephオブジェクトおよびブロック ストレージ システムがあり、IBMには、Spectrum Scale(旧称、GPFS:General Parallel File System)と、IBM Cloud上ではCloud Object Storageがある。
  • Red Hatには、リレーショナル データベース管理システムと言えるほどのものはないが、IBMには様々な形のDb2がある。両社とも、オープンソース コミュニティからのオープンソース データベースおよびデータストアを販売している。
  • IBMは、Power SystemsおよびSystem zメインフレーム上では、SUSE Linux Enterprise ServerおよびCanonical Ubuntu Serverを販売している
  • Red Hatは、JBoss Developer Studioを販売しており、IBMはRational Developerを販売している。

これがすべてを網羅したリストだとは言いませんが、この中でも、大きな競合や重複が見て取れます。競合や重複がまったくないわけではないことは間違いありません。IBMは、ある程度Red Hatの独立性が維持されることを約束しており、Whitehurst氏がRometty氏の直属となり、Red Hatは「独立した」部門とされ、一部は同社のHybrid Cloud配下に、一部はGlobal Services配下に収まるようです。そのため、この取引が完了したら、Red Hatの実際の業務の内容は見えづらくなるでしょう。しかし、真の問題は、IBMが、自社バージョンのインフラストラクチャー ソフトウェアからRed Hatバージョンへ軸足を移そうとしたり、さらに言えばIBM iおよびAIXを、Db2を内蔵したLinux on Powerへ置き換えようとしたりする気になってしまうことではありません。IBMがそのようなことを行うだろうとは思いません。少なくとも、Red Hatのビジネスが統合され、巨大なインフラストラクチャー ソフトウェアが形成されたとして、その後、数年間はないでしょう。もっと心配すべきことは、IBMが自前の製品の開発に資金を投じなくなってしまうことであり、そうなれば、AIXおよびIBM iのショップは、自らが使用しているソフトウェア ツールがネグレクトされて衰弱してゆくのを見る羽目になってしまいます。

もっとも、当面は、この点について心配するには及ばないでしょう。なにしろ、買収が完了するのは、おそらく1年以上先のことだからです。しかし、IBMがRed Hatに関して何を行うか、そして、IBMが自社のツールに関して何を行わないかについては、目を光らせておくことが大事です。そして、そのことこそが我々の仕事です。結局、それこそが我々の存在理由なのですから。

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