メニューボタン
IBMiコラム2020.08.26

IBM i のウンチクを語ろう
~ の50: SSDとNVMeを考える

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。IBM i 7.4が昨年4月に登場してから丸1年以上が経過し、先の4月には早くもTR2が発表されました。ご存知の方も多いと思いますが、TR(テクノロジー・リフレッシュ)とはバージョン毎に提供されるOS機能強化パッケージであり、Windows10で言うところのアップデートに相当するものです。最新の2バージョン、すなわち当コラム執筆時点ではバージョン7.3と7.4を対象に年に二回、春と秋にリリースされます。今回は昨年10月8日に発表されたIBM i 7.4 TR1を前提としてPOWER9プロセッサ搭載モデル上でサポートされる、新しいストレージ・テクノロジーであるNVMe(Non-Volatile Memory express)を紹介したいと思います。NVMeはハードディスク (HDD)、SSDに続く言わば第三のストレージ・テクノロジーで、NVM Expressという公開されているだけでも70社以上が参画する業界団体が推進しています。HDDやSSDと比較してコストとパフォーマンスに優れるというメリットがあり、これから本格的に市場が拡大するのではないかと思います。

かつてSSDはHDDに比べて、デバイスあたり半分以下の消費電力量と、10倍にもなる1秒間あたりのI/O回数(IOPS: Input/Output Per Second)を達成できる、格段に優れたストレージとして登場しました。HDDは待機中であってもディスクをモーターで回し続ける必要がありますのでそれなりに電力を消費しますし、機械稼働の動作スピードに限界がある事から、ここ何年もの間はデータ読み書きのパフォーマンス向上は見込めない頭打ちの状態にありました。一方のSSDは記憶素子としてフラッシュメモリを採用しており、機械稼働部分が無く電子的な動きのみでデータを読み書きできますので、HDDのような懸念がありません。これらメリットを活かしながら、データ入出力インターフェースの部分だけをHDDに合わせておけば、そのままHDDの代用として利用できます。要するにSSDとは、HDD互換インターフェース(IBM i だと最近はSAS = Serial Attached SCSIがよく使われていますね)を備えたフラッシュメモリだという事になります。

SSDが登場した当初は容量が小さいだけでなく、単位容量あたりのコストはHDDの何倍も高かった事、さらにフラッシュメモリの書込み寿命の短さに対する懸念、などからパフォーマンス要件が厳しいケースを除けば普及は限定的でした。もちろんメーカーも欠点を理解していましたので、世代を重ねる毎に様々な対策が取られます。

対策

小容量への対策として、HDDと混在させる案がある事を憶えていらっしゃる方も多いと思います。基幹業務用データについては、データアクセスの80から90%がストレージ容量の20%程度に集中する傾向があるので、SSDとHDDの容量を20対80の割合で混在させれば、パフォーマンスと同時に容量制限の懸念を最適化できるというものです。これを可能にするのはIBM i 独自に備わっている標準機能です。SSDとHDDとを識別しながら、アクセス頻度が高いデータはSSD、そうでないデータはHDDに自動的に配置することができます。現在ではストレージに蓄えられるデータは旧来の基幹業務用途だけに留まらないこと、SSDもコストダウンと大容量化が進んでいること、などから20対80は必ずしも絶対的なルールではなくなっているようですが。

SSDの世代が進むにつれて、大容量化と長寿命化が進みます。現在は容量と書込み寿命とのバランスのとり方の違いから、二つのタイプ、すなわち大容量だが書き込み寿命に制約のあるメインストリームSSDと、容量は控え目だが長寿命のエンタープライズSSDとに分化しています。参考までにドライブあたりの容量の推移を見てみると、初めてIBM i 用に利用可能になったSSDは69GBだったのに対して、当コラム執筆時点で最新・最大のメインストリームSSDは7.45TBですから100倍以上に大きくなっています。

書込み耐久性を表す指標として DWPD(Drive Write Per Day)が使用されます。1日24時間の間にドライブ容量全体をそっくり書き換える事といった意味で、メインストリームSSDは1 DWPD、エンタープライズSSDは10 DWPDとされています。例えば500MB容量のメインストリームSSDは、1日あたり500MBの書込みを毎日5年間続けるだけの耐久性があるのに対して、エンタープライズSSDでは書込み容量が10倍に伸びますので、実質的に無制限と言って良いと思います。

万歳

気を付けていただきたいのはIBM社による保証・保守のポリシーの違いです。メインストリームSSDは耐久性の限界に近づくと書込み動作が次第に低速になり、いずれ書込み不可・読取り専用としてしか機能しなくなってしまいます。従来どおりに書込み操作を継続するためにはデバイスの交換が必要になるのですが、保証・保守の対象になりませんので買い替える必要があります。このような突発的な状況を回避するためにも、「IBM i 電源ゲージ・ツール」(英語では「IBM i fuel gauge」、直訳すると「IBM i 燃料計」といったところでしょうか)を利用してSSDの残余寿命を適宜確認する事をお勧めします。一方のエンタープライズSSDについては、限界値を超過する・しないに関わらず、他の部品同様に通常の保証・保守の対象になります。

パフォーマンスに優れるストレージ・デバイスとして登場し、その後も大容量化と長寿命化が進んだSSDですが、使い易さを担保するためにSASなどのHDD互換インターフェースを備える事が、かえってネックとなる点が指摘されるようになります。高速な記憶素子であるフラッシュメモリのパフォーマンスを活かしきれない、という問題です。そこでSASの代わりとして定められた、フラッシュメモリ専用の高速の新しいインターフェース規格NVMeが策定されます。インターフェースそのもののパフォーマンスを比較したデータによると、1秒間あたりのI/O回数であるIOPSやストレージへの読み書き1回あたりのプロセッサ作業量(I/Oあたりクロック数)において、NVMeは概ねSASの2倍以上優れています。コスト面においてもNVMeストレージは概ね有利になるようです。容量あたりのコストにおいて、ストレージ・デバイス単体ではHDDよりも優れるとは言い難いですが、SSDやHDDと異なり、例えばRAIDコントローラを必要としない分構成がシンプルになりますので、コストも抑えられます。私自身も試しにサンプル構成を作ってみた事があるのですが、HDDよりもNVMeストレージを採用した方が低コストでした。

NVMeストレージにはいくつかの形状があります。IBM i で最初に利用可能になったのはPCIeスロットに直接挿入するカード型でした。その後7月14日付けでSSD形状の「U.2」と呼ばれるタイプも発表され、マシンあたりの搭載可能数が増えて使い勝手が向上しています。ちなみにAIXやLinuxにおいては「M.2」形状のNVMeストレージもありましたが、IBM i ではサポートされませんし、現在は既に営業活動を終了しています。

IBM i 用のNVMeストレージは、記憶素子としてのフラッシュメモリをベースに、形状はPCIeスロット用カードまたはSSDに似たU.2、通信規格はPCIe、デバイスを制御する手順はNVMe、といったテクノロジーで構成されています。先の7月発表のPOWER9モデル(型番末尾に「G」が付く事から俗に「Gモデル」と呼ばれます)では、旧来のPCIe Gen3がスペック上は二倍のデータ転送速度を持つ次世代のGen4に置換えられており、今後も更なる進化が想定されています。

なお、初期のSSDが登場して以来、フラッシュメモリの書込み耐久性が大幅に改善されているとはいえ、NVMeストレージの書込み寿命の懸念が全く無くなっているわけではありません。書込み耐久性限界を超過した際の交換においてIBMの保証・保守は適用されないので、バッテリーなどと同じく消耗品と見なす必要があります。先に紹介したIBM i 電源ゲージ・ツール同様のコマンドがNVMeストレージ用にも利用できますので、適宜残存寿命を確認するようにしてください。

NVMeストレージとは、大容量化と長寿命化の面で進化したフラッシュメモリを記憶素子とし、パフォーマンス向上とコストダウンを実現できる、将来性あるデバイスだと言えるでしょう。IBM i 向けに登場してからまだ日は浅いですが、今後は採用例が増え本格的に普及するものと思います。今後のストレージとして是非一度採用を検討されることをお勧めします。

ではまた

あわせて読みたい記事

サイト内全文検索

著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社パワーシステム製品企画より、ベル・データ株式会社東日本サービス統括部に転籍。日本アイ・ビー・エム在籍時はエバンジェリストとして、IBM i とパワーシステムの優位性をお客様やビジネス・パートナー様に訴求する活動を行うと共に、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わり合いを論じる講座を担当しました。ベル・データ移籍後は、エバンジェリストとしての活動を継続しながら、同社のビジネス力強化にも取り組んでいます。

PAGE TOP