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IBMiコラム2020.11.25

IBM i のウンチクを語ろう
~ その53:Windowsへの移行かモダナイゼーションか

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。仕事をする事とは通勤する事だ、という長年にわたる生活習慣が崩れて早くも半年が過ぎようとしています。一時は自粛ショックとでも言うべきムードの影響を受けていたのですが、Webを活用した各種ツールが見直され、あるいはツールに習熟した事によって、ネット越しにお客様と接する機会も次第に増えてまいりました。現在は例年に近いペースで、個々のお客様向けにセミナーや製品説明会を実施しています。

多くの企業では来期予算を策定する準備にかかろうとしているためでしょうか、最近は次期システム選定のために情報収集をしようとされているケースが目立ちます。IBM i をご利用中のお客様も例外ではありません。ここでもし社内でレガシーシステムというレッテルを貼られていたりしたら、オープンシステムへの移行を念頭に検討を進めることになるでしょう。従来のアプリケーションはそのままでは使えないしスクラッチ開発するのも大変だから、パッケージを採用すれば良いだろう、という構想が背景にあります。言わばシステムの全面刷新になりますので、運用に責任を持つIT部門にとっては、気軽に始められるプロジェクトではありません。だからと言って今日のDXブームの中で、刷新の否定的側面を大きく取り上げて反対意見を述べるのも気が引けます。今回は、そのようなジレンマに陥りつつあるお客様に向けて、どのような説明をするべきなのかを考えてみます。

ジレンマ

レガシーという指摘に対して、「IBM i は実はオープンなんです。ブラウザでシステムを利用できるし、JAVAもPythonも動くし、アレヤコレヤ・・・」といった論法で応じたくなるものですが、これが通じるのは、おそらくIT部門くらいのものではないでしょうか。できないと思い込んでいた事が実は実現可能だった、という発見があるにせよ、それだけで事業部門の方のIBM i に対する評価がガラリと変わった、という話は寡聞にして聞いた事がありません。オープンシステムへの移行が既定路線化していると、なかなか修正できないものです。世間ではJAVAやPython言語でアプリケーションを開発・利用しようとしたら、ほとんどの方はオープンシステムを念頭にシステムを選定しようとするでしょう。

最新のアプリケーションを開発するためにはオープンシステムが必要だ、という発想はありがちですが、よく考えてみると少々短絡的であるようです。ビジネス上の課題を解決するのはJAVAやPythonなどで記述されたアプリケーションやデータであって、裏方にあるハードウェアやオペレーティング・システムは直接的な価値をもたらすわけではありません。例えば誰もがWindowsサーバーはオープンシステムだと見なしますが(実際にはマイクロソフト社によるプロプライエタリなサーバーなのですが、ここでは取り敢えずその議論は脇に置いておきます)、もしその上でCOBOLアプリケーションを利用していたら、これをオープンな環境と呼ぶのは妥当でしょうか。逆にIBM i 上のPythonアプリケーションはレガシーなのでしょうか。何だかどうもしっくりきませんね。サーバーとアプリケーション環境とは不可分のものであるという意識があるから無理が生じるのであって、両者を分離して考えると都合が良さそうです。Windowsサーバー上のCOBOLはオープンシステム上のレガシー環境だし、IBM i 上のPythonはレガシーシステム上のオープン環境だというわけです。

ですからよく耳にするオープンシステムが必要だという主張は、正確にはオープンなアプリケーション環境が必要だという見解であるべきでしょう。モバイル対応とかAIとかデータ分析など、SoE(Systems of Engagement)と呼ばれるタイプのアプリケーションが該当します。これらはオープンシステムだけでなく、実際にはIBM i のような現代的なレガシーシステムにおいても稼働します。「現代的なレガシーシステム」とは矛盾した表現ですが、歴史は長いけれども進化もしていて、SoEアプリケーションも同時に稼働させる事ができるシステム、程度のつもりです。オープン環境をサポートできないシステムは、市場からの撤退を余儀なくされているのが現実です。そしてオープンシステムと現代的レガシーシステムのどちらを採用するべきか、というのが検討するべき課題になります。

課題

気を付けておきたいのは、SoEアプリケーションはそれ単独で存在するわけではないという点です。例えばモバイル対応化とは、従来は社内オフィスにあるPC上で利用していたSoR(Systems of Record)、すなわちレガシー環境にある基幹業務アプリケーションに、出先からスマートフォンなどのモバイル・デバイスを通じてアクセスできるようにする事だと定義できます。同様にAIやデータ分析アプリケーションが扱うデータも、レガシーシステムのレガシー環境上に存在し運用されてきたものです。IBM i、細かく表現するとIBM i というレガシーシステム上でレガシー環境を利用されていた方にとっての選択肢は二つあります。Windowsサーバーへと移行するか、現行機のままシステム刷新の際にオープン環境を追加構築、いわゆる「モダナイゼーション」と呼ばれる手法を採用するか、です。技術的にはどちらも可能ですし、事例もあります。

IBM i からオープンシステムへと移行すれば、何を失い、何を得るのかを予め認識しておくことをお勧めします。失うものの筆頭は、アプリケーション資産の継承性でしょう。後の世代のハードウェアやOS において、現行アプリケーションをそのまま継続利用することはできません。サーバーの世代交代は、ビジネス上の必要性の有無に関わらず、アプリケーションの見直しを強いることになります。また、統合性も失われます。OSとしての基本的な機能だけでなく、データベースやシステム管理、セキュリティなどがIBM i には組み込まれています。逆にオープンシステムであれば、豊富な選択肢の中からこれらミドルウェア製品を選択する自由度が生まれます。ただしシステム構築とその後の運用は自力で何とかしなければなりません。より豊富な製品選択肢を得る代わりに、統合性・運用性を諦める必要があります。一方で巷にある情報量や、同様のシステムを持つ「仲間」がより多い、というメリットは得られそうです。

移行とモダナイゼーションとどちらが有利なのか、両者を比較する興味深い調査レポートがIDC社から公開されています。日本語翻訳版はありませんが、どなたでもダウンロードできますので、グラフ部分のみでもざっと目を通してみる事をお勧めします。取り上げられているのはレガシーの代表格として、IBM Z(いわゆる汎用機ですね)とIBM i の2システムです。IBM i については、モダナイゼーションを実施した企業数95に対して、他のサーバーに移行した企業数98が回答しており、十分なサンプル数があります。移行先として筆頭に挙げられているのは、Windowsサーバーです。レポートではオープンシステムへの移行において、二つの大きな誤解がある事を指摘しています。

指摘

よくある誤解とされる第一点目は、移行先のWindowsサーバーは元のサーバー、すなわちIBM i よりも格段に優れている、というものです。この点については、移行したあるいはモダナイゼーションを実施した、それぞれの企業による満足度(レポートのページ15にあるFigure10)が参考になります。「システムの使用感」(Customer experience)に関する5点満点で評価された満足度は、移行した企業(Replatformers)3.96に対して、モダナイゼーションを実施した企業(Modernizers)4.27と後者の方が優れています。その他「人材確保の容易性」、「モバイル化・Web化」、「システムの安定性」、「パフォーマンス」など、あらゆる観点において、モダナイゼーションの方が高い満足度を示しています。

もう一つの誤解は、もしマシンの刷新を伴うのであれば、モダナイゼーションの方が髙コストになる、というものです。レポートのページ8、Figure4にあるように、ハードウェア投資額が40万から200万ドル(日本円にして4,000万円から2億円程度)のケースで見た時に、IBM i のままでモダナイゼーションを実施した方が移行するよりも3.5%のコスト安になるという結果が出ています。ここにはソフトウェア、人件費、第三者へのコンサルティング料、切換えコストなどが含まれていますが、クラウド利用における新たな運用コストは除外されています。

満足度とコストの観点から、IBM ZやIBM i のような現代的なレガシーシステムを活かしてモダナイゼーションを実施した方が、オープンシステムに移行するよりも優れた選択肢である、という調査結果は意外だったかも知れません。これは統計的に導かれた結果ですので、個別にきちんと分析すれば、逆の結果が得られるケースもあるでしょう。いずれにしても、何となくオープンシステムと決するのではなく、個々のケースに応じて効果やコストを分析するか、レポートにある統計結果を信じるか、冷静に一歩立ち止まって考えてみる事をお勧めします。

ではまた

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著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社パワーシステム製品企画より、ベル・データ株式会社東日本サービス統括部に転籍。日本アイ・ビー・エム在籍時はエバンジェリストとして、IBM i とパワーシステムの優位性をお客様やビジネス・パートナー様に訴求する活動を行うと共に、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わり合いを論じる講座を担当しました。ベル・データ移籍後は、エバンジェリストとしての活動を継続しながら、同社のビジネス力強化にも取り組んでいます。

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