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IBMiコラム2022.06.22

IBM i のウンチクを語ろう
~ その72: 市場調査レポートにみるIBM i の課題

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。今年はIBM i にとって大きなテクノロジー刷新の年だと言えるでしょう。前回のこのコラムでは、発表されたばかりのバージョン7.5とその関連製品を紹介しました。ハードウェアの方は、昨年Power10プロセッサ搭載のエンタープライズ・モデル、いわばハイエンド機が発表・出荷開始されており、続いてスケールアウト・モデルまたはローエンド機がそれほど遠くない将来に登場するはずです。採用されるお客様数がより多いことから、注目度はローエンド機の方が高いのではないでしょうか。

このような変動期を迎える中で、IBM i 市場が今どのような状況にあるのかを今回のコラムでは見てみたいと思います。主に参照するのは今年1月に公開された米国HelpSystems社による市場調査レポート「2022 IBM i Marketplace Survey Results」です。今回のこの調査には北米、ヨーロッパやアジアなど全世界で500近いIBM i ユーザーが参加しており、IBMロチェスターでも結構頻繁にこのレポートを参照しているようです。製品の新機能の開発プランを立てる際に、市場動向を知るために参考にしているのかもしれませんね。

サイバーセキュリティはIT計画時における最大の懸念事項

サイバーセキュリティやランサムウェアを主要な懸念事項であるとする方の割合は、過去6年間以上にわたる調査において最大であったばかりでなく、今回もその傾向は継続されています。レポート内の「Top Concerns」に示されているように、「What are your top 5 concerns as you plan your IT environment?」(IT計画時に最も優先的に取り組むべき5つの懸念事項は何ですか)という問い掛けに対して、62%の方が選択しています。さらにHA/DR、すなわちハイアベイラビリティと災害対策の59%、アプリケーションのモダナイゼーション(テクノロジー刷新)56%、IBM i のスキル53%などと続きます。手元にある2017~2021年版レポートも見たところ、パーセンテージの値は変動しているものの、これら上位4項目と順序は全く変わっていないことがわかります。

企業の基幹業務を支えるサーバーに求められる最も重要な要件は安定性である、という意識がセキュリティとHA/DRとを最上位に位置付ける結果をもたらしているのでしょう。続くモダナイゼーションとスキルは、盤石とされる基幹業務サーバーを前提にしながら、将来次々と登場するであろう新テクノロジーをどのようにして活用してゆけば良いのか、常に考えてゆかなければならない、という意識によるものなのでしょう。しばらくの間はこの傾向は続きそうな気がします。

続く

セキュリティ対策は多岐にわたるべきだが

引き続き対策の傾向を見てみましょう。「Cybersecurity」のところに、「Which security solutions do you have in place or plan to put in place across your IBM i servers?」(IBM i に既に実装済み、または実装を予定しているセキュリティ・ソリューションは何ですか)という問いに対する回答者割合が示されています。今度は該当する項目であればいくつでも選択できます。結果を見ると、セキュアなファイル転送を実装済み、またはその予定があるとしたユーザーが63%と最も多く、次いで特権ユーザー管理62%、コンプライアンスと監査レポート60%、出口ポイント・セキュリティ54%、などと続きます。

注意しておきたいのは、これらの中からどれか一つを選択・実装しておけば十分である、というものではない事です。想定されている脅威はそれぞれ違うので、中には該当しないケースもあろうかと思いますが、理想的にはこれら全てのソリューションは実装するべき対象です。例えばデータベースの暗号化を実装済み、またはその計画があるユーザーは合計すると37%になりますが、逆の見方をすると、63%ものユーザーは暗号化によるデータベース上のデータ保護を実装する予定がありません。セキュリティを最も重要な課題としながらも、各ソリューションの検討は必ずしも進んでいないし、その方向にあるとも言えないのが実情です。

脅威の進化にセキュリティ・スキルの向上はついてゆけるのか

何がセキュリティ対策を打つ上での課題となっているのでしょうか。「What are your greatest IBM i cybersecurity challenges?」(サイバーセキュリティにおける最大の課題は何ですか)に対する回答を見てみましょう。セキュリティの知識とスキルの不足を挙げたユーザーが、昨年比で3ポイント伸ばして最も多い47%に達しています。次いで、変化する脅威が同じく6ポイント増の42%、セキュリティ管理とビジネス効率のバランスが38%、新たに登場するテクノロジーが30%、などと続きます。

スキル不足と変化する脅威という上位二つの課題の間には、相互に因果関係がありそうです。製品提供側はセキュリティ対策を含む新機能を実装してゆく一方で、ハッカーもセキュリティ破りのテクニックを磨くという、イタチごっこの状態にあるのが実情です。IBM i においてもセキュリティ機能は頻繁に強化されているのですが、それら全てを理解しているかと問われたら、ほとんどの方は「NO」と答えるのではないでしょうか。脅威の変化が止むことはないとしたら、このままではセキュリティのスキル不足はより深刻になってゆく一途にあると言えそうです。ITの世界にも「銀の弾丸」(Silver Bullet、「狼男を倒せる武器」転じて万能の解決策といった意味)があれば良いのですが、そうでもないのが現実です。

次に誰もが着目したくなるもう一つの話題に目を向けてみたいと思います。プログラム言語RPGの扱いについてです。

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RPG言語はシェアを拡大させている

IBM i と切っても切れない関係にあるのがRPGです。基幹業務アプリケーションなどにおいてソフトウェア資産の継承性をもたらしているのがRPGならば、黒地に緑字のブラック・スクリーンとも称されるCUIを前提に動作するのもRPGです。前者はビジネス的効果の観点から高く評価される一方で、後者は見栄えが地味であるために古さを感じさせてしまうといった具合に、このプログラム言語に対する評価は好悪入り混じったものになるようです。そして否定的側面ゆえに、プログラマ人口は減少傾向にあると認識されており、将来性に対する懸念にもつながっています。程度の差こそあれ、今後もRPGアプリケーションを利用し続けるのは妥当なのか、と自問される方も多いことでしょう。

「Which development languages do you use today for new development on IBM i?」(IBM i における新規開発用に、今日利用する開発言語は何ですか?)に対する回答はなかなか興味深いものがあります。トップは圧倒的かつ不動の(と表現して差し支えないでしょう)RPGで、昨年比6ポイント伸ばして93%に達しており、RPG利用に不安は全く無いかのような動向を示しています。大きく下落することは無いにしても、漸減傾向にあるかもしれないという予想は完全に裏切られてしまいました。次いでSQL 77%、CLP 65%、Java 40%、PHP 20%、Python 19%などと続きます。

フリーフォームRPGの利用がこの伸びの理由だろう、とレポートでは述べています。RPG/400(RPGⅢ)、固定フォームのILE RPG(RPGⅣ)、フリーフォームILE RPG(RPGⅣ、以下FFRPG)と大きく分けて3つの世代がある中で、他言語との互換性が高く、新規に学習する上でのハードルが低いFF RPGの利用が大分浸透してきたというわけです。3年前の他社のデータによると、既にFF RPGはRPGファミリーの中でトップの座を占めています。この時からさらに世代交代が進んでいるのは間違いありません。

データベースへのアクセスはSQLで

FF RPGの浸透がプログラム言語のオープン化を象徴するものだとしたら、データベースへのアクセス方法にも目を向けたいところです。従来はIBM i 独自のネイティブ・アクセス、またはレコード・レベル・アクセスが主力でしたが、最近はSQL利用が大きく伸びています。このコラムでも紹介した事がありますように、今後の推奨されるべきアプリケーション開発環境は、FF RPGとSQLの組合せである旨をIBM開発部門は明言しています。パフォーマンスの向上も繰り返し図られており、市場動向も概ねその方向にあると言って良さそうです。

のびる

FF RPG前提のRDi利用者数も伸びている

FF RPGへの移行の裏付けとして、開発ツールであるRDi(Rational Developer for i)の利用者動向にも目を向けたいと思います。旧来のRPGⅢや固定フォームRPGⅣであれば、RDi利用は必須ではなく、エミュレータ前提で動作するADTSでもアプリケーションを開発できます。FF RPGはADTSでサポートされませんので、RDiの利用が必要になります。

「Do you own/use Rational Developer for IBM i (RDi)?」(RDi を所有・利用していますか)への回答を見ると、昨年の51%から大きく伸ばして、62%の方が何らかの形で利用中であると回答しています。FF RPG + SQL + RDi の組合せが、IBM i アプリケーション開発における定番になりつつあることがわかります。

RPGはIBM i の将来性に対する懸念事項、という見立てはもはや正確ではないと言えます。FF RPG、SQL、RDi へと世代交代しない事、逆に言うとRPG/400、レコード・レベル・アクセス、ADTS利用に留まる事が、将来性に対する懸念事項になると認識する必要があるのだと思います。

まとめ

今回はIBM i における懸念事項の観点から、セキュリティとアプリケーション開発テクノロジーに着目しながら市場調査レポートを眺めてみました。レポートによると2022年内にハードウェアかソフトウェアのどちらか一方、または両方を更新したいとするユーザーは61%に達するそうです。単なる置換えに留まるのではなく、システムを進化させるための投資という観点から検討いただければと考えております。

ではまた。

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著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社パワーシステム製品企画より、ベル・データ株式会社東日本サービス統括部に転籍。日本アイ・ビー・エム在籍時はエバンジェリストとして、IBM i とパワーシステムの優位性をお客様やビジネス・パートナー様に訴求する活動を行うと共に、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わり合いを論じる講座を担当しました。ベル・データ移籍後は、エバンジェリストとしての活動を継続しながら、同社のビジネス力強化にも取り組んでいます。

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