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IBMi海外記事2024.02.28

IBM i とクラウドの雲行きはどうなるのか

Alex Woodie 著

今日のソフトウェア業界にクラウドが及ぼしている巨大な牽引力を無視することはほとんど不可能です。IBM i サーバーを稼働している企業も、その引力の影響を受けています。企業の技術的な将来像にも、クラウドで業務を運用するかどうかの判断にも、様々な影響が及んでいます。

IBM i のショップは、今日、当然といえば当然ですが、クラウド上で稼働してはいません。少なくとも、パブリック クラウドでは一般的と思われるようなやり方では稼働していません。プライベート クラウドにIBM i ランタイムを提供しているマネージド サービス プロバイダー(MSP)もわずかながらあり、IBM i サーバー上でITサービスを提供しているSaaSベンダーもいくつかありますが、IBM i のショップには、業界標準のX86サーバー上で稼働している企業ならできるようなやり方で、自家製のITおよびアプリケーション スタックをパブリック クラウド プロバイダー、 AWSMicrosoft Azure、および Google Cloudへ、「リフト&シフト」する選択肢はありません(IBM Cloud はIBM i ランタイムを提供していますが、ビッグ3が提供している巨大なインフラやスケール メリットはありません)。

もちろん、だからと言って、IBM i のショップの将来像の中にクラウドは存在していないというわけではありません。ほぼ間違いなく、存在しているでしょう。違っているのは、IBM i のショップは、ほぼ間違いなく、既存のITおよびアプリケーション スタックを一緒に連れて行こうとしないところです。そして、少なくとも、それらが現存しているうちはそうなります。

ここ10年間でのパブリック クラウドおよびSaaS(サービスとしてのソフトウェア)業界の大きな成長は、ITにまつわるすべてのものに影響を与えています。 最新のGartner社のレポートによれば、SaaS、PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)、IaaS(サービスとしてのインフラストラクチャー)、およびその他の *aaS(サービスとしての * )オファリングにわたる、今年のパブリック クラウドへの支出額は6,000億ドル近くになると見込まれています。昨年の約5,000億ドルから大幅に伸びています(増加率は約21%)。来年は、増加率は同じく21%で、クラウドおよび*aaSへの支出額は7,250億ドルとなるとGartner社は推定しています。

SaaS市場は、この10年で爆発的に拡大しています。2015年には、世界全体でのSaaSオファリングへの支出額は314億ドル程度でした。今年、その額は1,963億ドルになると予測されています。支出額は9年間で5.2倍増えています。Statista社のグラフから見て取れるように、グラフは右肩上がりになっており、SaaS支出が急増していることが分かります。

2015年~2024年の世界全体のパブリック クラウド アプリケーション サービス/SaaS(サービスとしてのソフトウェア)のエンドユーザー支出額。(出典: Statista社)(十億米ドル単位)

明らかに、SaaS市場は、現在のところホットな市場です。従来のソフトウェア ベンダーやスタートアップが、自社のソフトウェアをクラウド上で提供しようと移行を行っているためです。ある推計によると、世界全体では、クラウドで稼働しているSaaSベンダーは70,000社を超えているということです。もっとも、そのうち、利用の頻度が高いのは25,000~30,000社程度であるようですが。

このようなパブリック クラウドおよびSaaSの急増は、IBM i のショップにどのような影響を与えるでしょうか。もちろん、良い面もあれば、あまり良くない面もあります。

プラス面としては、クラウドにおける先進的なアナリティクスおよびAIソリューションの利用可能性は、かつてなく高まっています。データをパブリック クラウドに移行する企業には、利用できるオファリングがあり余るほどあります。費用の掛かるオンプレミスのデータ ウェアハウスやGPUクラスターを構築して、データをクランチしたり、機械学習モデルを構築したりする必要はなくなります。そのようなシステムはクラウドではオープンで利用可能だからです。必要なことは、本稼働中のIBM i データベースからデータ パイプラインを接続し、専用のアナリティクス リポジトリにデータを送信するだけですが、これは、IBM i のショップが太古の昔から行ってきたこと(そうであるにもかかわらず、データ ウェアハウジング マシンとして稼働するIBM i の、十分に活用されていない、正しく評価されていない機能)なのです。

マイナス面が忍び寄ってくるのは、ほとんどの場合、オペレーショナルまたはトランザクショナルな領域です。これは、常にIBM i の中核的な領域であったところです。このミッドレンジ サーバーおよび統合されたデータベースは、伝統的に、ありとあらゆる業界の企業の日常的な業務処理を支えている自社製およびベンダー提供のエンタープライズ アプリケーションの基盤として機能してきました。ビジネスクリティカルな本稼働システムは、他のワークロード(アナリティクス、アプリケーション開発、テスト、バックアップ/リカバリー、ハイ アベイラビリティー/ディザスター リカバリーなど)に比べて、パブリック クラウドへの移行に出遅れ気味でしたが、それらをクラウドに移行しようとする、ゆっくりとした着実な勢いがあるというのは紛れもない事実です。

本稼働中のビジネス アプリケーションやERPシステムのパブリック クラウドへの移行を検討しているIBM i のショップにとっては、問題が2つあります。そのアプリケーションがカスタムメイドのIBM i アプリケーションである場合は、プライベート クラウドで稼働するか、パブリック クラウドのx86システム上で稼働するように書き直すことになります。そして、そのアプリケーションがパッケージ アプリケーションである場合は、ほぼ間違いなく、その製品の再実装が必要となります。IBM i がクラウドで稼働しないからです。

モダナイゼーション ツール プロバイダーの EvolveWare社CEO、Miten Marfartia氏は、IBM i のショップが既存のアプリケーションをクラウド ネイティブになるように書き直すための堅実な手法があると述べています。

「レガシー アプリケーションのモダナイズとクラウドへの移行に関して言えば、最善のアプローチは、クラウド ネイティブ アプローチです」とMarfatia氏は『 IT Jungle』に述べています。「選択肢は2つあります。すなわち、(1)ソース アプリケーションからビジネス ルールを抽出し、クラウド対応の商用既製(COTS)製品にそれらを実装するか、最先端のテクノロジーを使用してアプリケーションを書き直し、マイクロサービスをプロセスで生成する。(2)現行テクノロジーを使用してマイクロサービスを含むモダンなコードを生成できるアプリケーション モダナイゼーション プラットフォームを利用する。」

マイクロサービスを利用するためにモノリシックなレガシー アプリケーションを書き直すことは、パブリック クラウドと、それらの由来となるIBM i またはSystem Zシステムとの構造上の違いのために、特に重要だとMarfatia氏は述べています。

「クラウド移行のためにモダナイゼーションが必要となる多くのレガシー アプリケーションは、無人モードで大量のデータを処理するモノリシックなバッチ アプリケーションです。つまり、データを処理しているコードは、シングル スレッドのコード、あるいは単一コピーとしてすべて一体化されたコードです」と彼は述べます。「これらのアプリケーションが一定の時間でそれほど大量のデータを処理することができるのは、それらが稼働しているメインフレームまたはミッドレンジ システムのハードウェア パワーによるものです。モダナイズされたアプリケーションが同じように稼働するには、アプローチとしては、処理を実行するコードを、複数のインスタンスまたは複数のコピーとしてインストールできるマイクロサービスへ分解することです。つまり、並列でデータを処理するコードの複数のコピーがあるということです。」

独立系ソフトウェア ベンダー(ISV)製のパッケージERPアプリケーションを稼働しているIBM i のショップには、対処が必要な別の変動要因があります。これらのISVの多くは、今後数年間(場合によっては数十年間)、IBM i オペレーティング システム上で彼らのソフトウェアが稼働することを表明しています。

たとえば、Jack Henry & Associates社は、数十年間にわたって、IBM i サーバー上で稼働するコア バンキング アプリケーションを開発してきました。このプラットフォームは、同社とそのクライアントにとって非常にうまく機能してきました。そのため、Jack Henry社は、同社のバンキングの顧客が稼働しているPower Systemsハードウェアの管理を行うなど、同社の多くのIBM i クライアント向けのプライベート クラウドとしての役割さえ果たしてきました。しかし、同社は、パブリック クラウドでコンテナ化されたマイクロサービスとしてソフトウェアを稼働する方を選んで モダナイゼーションの取り組み を開始しました。同社は、最終的にはネイティブIBM i 開発から離脱することになるかもしれません。

Jack Henry社の顧客には、IBM i サーバーから離れてどのようにマイグレーションを行うにしても、準備の時間は数十年ありそうです。そして、それまでの間に起こるかもしれないことはたくさんあります。IBMは、おそらく2040年までには、IBM i プラットフォーム上でどのようにKubernetesを稼働させたらよいか理解するでしょう。あるいは、このプラットフォームが、K8Sによって管理されるコンテナに収められているかもしれません。答えを見つけるための時間はたっぷりあります。

しかし、すべてのIBM i のショップに時間的余裕がたっぷりあるわけではありません。たとえば、SAP社は、同社の新たなクラウド対応プラットフォーム、S/4HANAへ、同社のERP顧客をすべて移行させる計画を進めています。このドイツの巨大ソフトウェア企業は、ECCおよびBusiness Suiteのメインストリーム サポートを終了する2027年の期限について考えを変えていません。これらの製品は、IBM i 上の約1,500社を含め、様々なプラットフォームを稼働している何千もの顧客が利用しています。顧客は、2030年までの延長サポート契約を購入することはできるようです。

このような期限が目前に迫っている顧客にとっての難題は、S/4HANAへと突き進む強行軍だけではありません。顧客が既存製品で現在享受している機能の幅広さと奥深さを、S/4HANAが提供していないということです。SAP社は、機能ギャップは狭まりつつあり、2027年までにはギャップはなくなると断言していますが、納得できない顧客もいるようです。

Gartner社は、2026年までには、組織の75%が、基礎となる基本的なプラットフォームとしてクラウドを前提としたデジタル トランスフォーメーション モデルを採用するだろうと述べています。そうなるのかもしれませんが、だからと言って、必ずしも、デジタル トランスフォーメーションが簡単になったり、障害物がなくなったりするわけではありません。

Third Stage Consulting社CEOのEric Kimberling氏は、長年にわたって、数多くのERP実装およびデジタル トランスフォーメーション プロジェクトがうまくいかなくなるところを目にしてきました。Kimberling氏は、新著『The Final Countdown: Strategies to Reach the Third Stage of Digital Transformation(最終カウントダウン: デジタル トランスフォーメーション プロジェクトの第3段階へ到達するための戦略)』の中で、大規模なデジタル トランスフォーメーションおよびERP実装プロジェクトを経験した米国の巨大鉄鋼メーカーの例について詳しく述べています。

製品導入の半ばで、このERPベンダーは主力製品をクラウドへ移行させました。「クラウド ソリューションへ乗り換えるようにベンダーが説得を試みたにもかかわらず、クライアントは徹底的な評価を実施し、クラウド バージョンは十分に成熟しておらず、ニーズを満たさないと判断しました」とKimberling氏は記しています。「彼らはそのソフトウェアの古い、より円熟したバージョンに留まる方を選びました。結果として、彼らの要件により適していたのは、そちらのバージョンだったというわけです。」

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