IBM、どうやらIBM i 向けにLinux対応PASEを構築中か
あるプラットフォームにとって有益だろうと思われることについて考えていて、そのプラットフォームを提供している会社が、そのことについて取り組んでいることが分かったときは、本当に心地よいものです。これは、まさに、先日、カリフォルニア州アナハイムで開催されたPOWERUp 2025カンファレンスで、IBM i CTOのSteve Will氏がスピーカーを務めたセッション「 IBM i - A Strategic Preview For 2025 And Beyond (IBM i - 2025年以降に向けての戦略的プレビュー)」を見直していて思ったことです。私自身はそのイベントに参加できませんでしたが、小誌の共同編集者であるAlex Woodieは参加することができました。それによると、どうやらIBMは、Linuxアプリケーションをホスティングするのに使用できる、IBM i オペレーティング システムに組み込まれているPASE AIXランタイムのようなものに取り組んでいるらしいことが分かり、非常に嬉しく思いました。
Linuxが世界でその足跡を拡げている唯一のオペレーティング システムであり、非常に多くの新たな興味深いアプリケーションおよびシステム ソフトウェアがLinux上で稼働していることからすると、これはもっとずっと前に取り組むべきだったことだと言えるでしょう。Linuxの人気が高まるのにつれて、私は何年も前から、この件について様々な形でそれとなく述べてきましたが、2023年5月の「 OpenShift Can Be The New PASE For IBM i Shops(OpenShiftはIBM i ショップ向けの新たなPASEになり得る)」という記事では、ネイティブなLinuxランタイムがIBM i 内に組み込まれる必要があることについて余すところなく述べています。そのアイデアは、2つの課題を同時にクリアすることを目指したものでした。つまり、Power Systems区画内にLinuxランタイムおよびKubernetesコンテナ プラットフォームも埋め込みながら、それがIBM i の内部でまったくネイティブであるように見えるようにするというものです。これは、Portable Application Solution Environment(PASE: 可搬性のあるアプリケーション ソリューション環境)と非常によく似ています。PASEは、ちょうどLinuxがエンタープライズに進出し、Unixがデータセンターで存在感を高めていた2000年6月に、OS/400 V4R5に組み込まれました。
OS/400 V4R5リリースは、リリース レベルおよびタイプの異なる複数のオペレーティング システムが混在する形で、後にPowerVMとして知られることになる比較的新しいハイパーバイザー内で、単一のハードウェア プラットフォーム上で稼働することを可能にした最初のリリースでした。また、V4R5は、1台のマシンで最大24個の区画が可能で、これはV4R4の2倍でした(実際にはOS/400のバリアントを使用してOS/400区画をホスティングしていました)。PowerVMは、同じホストおよびゲスト区画分割の概念をベースにしていましたが、その中心にはAIXカーネルがありました。また、そのV4R5オペレーティング システムには、Windows Serverとの統合機能も組み込まれていました。これは、Windows NT Server 4.0またはWindows Server 2000が、統合Netfinity Servers上でデプロイされることを可能にしました。これらは、以前はIntegrated File Serving I/O Processorsとして知られ、1995年に初登場し、IBMのOS/2 LAN Server、Novell社のNetWare、およびLotus Development社のNotesを稼働していました。AIXおよびLinuxはPowerでネイティブに稼働するため、周辺バスに接続された小型サーバー上で稼働しているX86サーバーにオフロードされる必要はありませんでした。PASEは、IBM i オペレーティング システム カーネルに隣接する一種のホスティングされたランタイムとして稼働します。そして、私がPortable Linux Enterprise Application Software Environment(PLEASE: 可搬性のあるLinuxエンタープライズ アプリケーション ソフトウェア環境)と呼んでいる、Linuxをベースにしたバリアントでも、同じことを行えます。
私は欲を出して、KubernetesをベースにしたLinuxコンテナ システムがこの一部に加わってもらえればと思いましたが、Will氏が戦略的プレビューで述べたことからすると、それは、高望みだったのかもしれません。以下は、すべてWill氏が述べたことです。したがって、PLEASEがどのようなものになり得ると彼が考えているのか垣間見ることができます。
「これは、普段、私が話していることに比べると、より将来的な考えです。ロードマップには、来年中に登場するとお話しできることはないからです。しかし、オープンソースの多くが、世界中で使用され、Linux上に置かれ、そしてAIXへ移行されることは絶対にないかもしれないという事実に私たちは向き合う必要があります。」
「したがって、Linuxベースのオープンソースをもっと上手にIBM i に取り入れる方法を見つけなければなりません。」
「もっとも、実際にはIBM i 内でそれを稼働するというわけではないかもしれません。Powerでは、ある作業プロセスが進行中です。それは、Linux Power区画をデプロイしてIBM i に接続し、それが一体的なものであるように見えるようにするものです。さて、何かを話したり発表したりできる段階ではありませんが、目指しているのはそのような方向です。オープンソースがLinux on Powerで稼働していて、PASEが接続されているのと同じように接続されているように見せることができました。Linux区画にまつわるすべての複雑な問題に対応する必要はなくなります。OpenShiftクラスターやそのようなもので行うやり方について話しているのではありません。本当に極めてシンプルです。これが、現在、IBM i が到達する必要があると私が考える将来の姿です。」
OS/400およびIBM i プラットフォームには素晴らしいところがたくさんありますが、その1つがPASEです。IBMのマーケティング担当によって場当たり的に変更されるまでは、元々は、Private Address Space Environment(局所的なアドレス空間環境)と呼ばれていました。そして、PLEASEにはもっとずっと前から取り組むべきだったと思うので、膨大な数のLinuxアプリケーションおよびシステム ソフトウェア(さらにはコンパイラーも)が、IBM i のショップにとって透過的にネイティブに見えるようにさせるためにIBMが何かを行っていることは嬉しい限りです。
PASEは、TCP/IPネットワーキング スタック、MySQLおよび他の非IBM i データベースのサポート、さらには様々なコンパイラー向けの数多くのランタイムをホスティングする機能をIBM i に導入する方法です(次はRustかもしれません。IBMはAIX向けのネイティブなRustコンパイラーを用意しているからです。これについては 2月の記事でお伝えし 、 5月の記事では、PASEを介してIBM i へ移行されるべきと提言しています)。正直なところ、PASEで稼働しているものには、PASEで稼働していることを私たちが知ってさえいないものもたくさんあるかもしれません。そして、それこそが、ある意味肝心なことです。知っている必要も、気にする必要もありません。AIXソフトウェアをロードすると、適切なIBM i へのAPIフックがあり、本当はハイブリッドなIBM i-AIX環境を稼働しているということはまったく気になりません。
つまりこういうことです。今度こそは、AIXのショップもIBM i のショップも、Power Systems区画で別個のLinux区画またはクラスターを管理する必要なく、モダンなLinuxアプリケーションを取り入れることができるようになりたいのです。AIXのショップもIBM i のショップも、Linuxマニアを雇うことなく、彼らのシステムで透過的に苦労なくLinuxアプリケーションをサポートできるようになりたいのは間違いありません。そこで、Power Systems顧客基盤のうち、顧客が最も多い部分(IBM i)と、最も多くの収益を生み出している部分(AIX)のニーズが一致するのです。
WatsonX AIシステム ソフトウェアは、IBM i およびAIXシステムで稼働する最初の一目瞭然のキラー アプリケーションです。だからこそ、改めて言います。IBMは、PLEASEランタイムを作成するべきなのです。それは、 モノリシック であり、かつ コンテナ化された LinuxワークロードをIBM i およびAIXの下で稼働するものの、実際は、LinuxワークロードでIBM i またはAIXにとってネイティブに見える完全なOpenShift Kubernetes環境です。ちょうどPASEのように、誰も知らないように、誰も気にしないように、PLEASEが動作するだけです。
そうすることにより、IBMは、自社のエンタープライズ顧客基盤全体にわたってOpenShiftスタックを増やすことができるのとともに、IBM i およびAIXのショップがより多くのワークロードをX86アイアンからPowerアイアンへ移行するよう支援することもできます。それによって、Power Systemsプラットフォームは企業にとってより重要な存在になります。これによって、今度は、IBM i およびAIXのショップのコンピューティング能力が向上し、それによって、Power Systemsの販売が促進されるというように、次々に好循環が生まれます。