メニューボタン
IBMi海外記事2022.07.13

IBM i 7.5および7.4 TR6の発表日によせて

Alex Woodie 著

本日、IBMは、IBM i バージョン7.5を発表しました。3年ぶりとなる、オペレーティング システムの新バージョンです。今回のリリースにおける大きな新機能としては、Db2 Mirrorの機能強化、セキュリティ構成の強化、および新たなデータベース機能などを挙げることができるでしょう。また、Merlinと呼ばれる新たなモダナイゼーション フレームワークと、新たなIBM i のサブスクリプション オプションも発表されました。併せて、IBMは、IBM i 7.4テクノロジー リフレッシュ6も発表しています。

IBM i 7.5の発表での大見出しの1つと言えば、「Merlin」ということになるでしょう。 IBM では、「Modernization Engine for Lifecycle Integration(ライフサイクル統合のためのモダナイゼーション エンジン)」の略称としています。Merlinは、新たなアプリケーションの作成や、既存のRPGベースのアプリケーションのモダナイゼーションを行うための、軽量なブラウザベースの開発環境を提供します。言い換えれば、Merlinは、あまり使いたがらないユーザーが多いようにも思われる、Rational Developer for i(RDi)の代替となる製品とも言えるでしょう。

Merlinは、 ARCAD Software社と共同開発されたものであり、DevOpsスタイルのコード管理のためのGitおよびJenkinsといったツールや、RPGコード コンバーターなどが事前に組み込まれています。Merlinは、Powerプラットフォームで稼働するLinuxベースの Red Hat OpenShiftコンテナ内で実行されます。IBM i バージョン7.5または7.4 TR6に技術的に関連付けられてはいませんが、Merlinは、IBMがIBM i のショップに向けて機能のパッケージングやデリバリーを行うやり方の大きな変化を示すとともに、ユーザーがコードベースをモダナイズするのを支援する際にIBMはもっと積極的な役割を担う必要があるという認識の現れでもあるようです。Merlinについては、『 The Four Hundred』の明日発行の記事で詳しく取り上げる予定です。

もうひとつの大きなニュースはこちらです。IBM i のショップは、お気に入りのオペレーティング システムを、新たな方法を通じて入手できるようになります。IBMは、顧客が1~5年の期間のIBM i のサブスクリプションを購入できるようにするということです。これにより、顧客は、畏れ多い資本的支出(CapEx)勘定からではなく、運用支出(OpEx)の予算枠を活用してIBM i オペレーティング システムを入手できるようになります。

現在のところ、IBMではローエンドのIBM i 環境に重点を置いていることから、サブスクリプションは4コアP05マシンに限定されていますが、今後は、より大型の環境へと拡大する予定だとIBMは述べています。サブスクリプション オプションの詳細については、今号のTimothy Prickett Morganによる こちらの記事を参照してください。

こうしたソフトウェア サブスクリプションへの移行の一環で、IBMは、頻繁にIBM i とともに使用されている関連製品のバンドル方法の見直しを行っています。これを受けてIBMは、IBM i 向けの11のライセンス プログラム製品(LPP)および8つのオプション機能を、コア オペレーティング システム エンタイトルメントに移行します。つまり、すべてのIBM i 顧客が、これらのLPPまたは機能を追加料金なしで入手できるようになるということです(ただし、それぞれ個別に入手する必要があります)。

これら2つの大ニュースと比べると、IBMがIBM i 7.5本体に向けて提供している新機能は、いくぶん地味なものに見えてしまうかもしれませんが、それらの機能は、本来、それぞれ別々の記事として取り上げるに値するくらい重要なものばかりです。以下では、データベース、Db2 Mirror、およびセキュリティに関する、今回のリリースのハイライトについて概観してみようと思います。いつものことながら、新機能および機能強化は何百件にも上るため、それぞれの詳細については、今後の『 The Four Hundred』の記事をお待ちください。

IBM i 7.5での機能強化

Db2 for iデータベースはIBM i マシンの心臓部であるため、まずはここから始めることとします。IBM i 7.5で導入される新たなデータベース機能には、以下のものがあります。

  • ブール データ: Db2 for iは、ようやくブール データおよび関数をサポートするようになりました。開発者は、基本的に「真」または「偽」の式を返すこととなる、ブール式を利用できるようになります。JSONデータと同様に、RPG開発をサポートするとIBMは述べています。
  • 索引サイズの拡張: これまでは、Db2 for iにおける2進基数索引のサイズは1.7TBに制限されていました。IBM i 7.5では、データベースは、基本索引に16TBのデータを格納できるようになりました。「IBM i を使用して膨大なデータ量を扱うワークロードに取り組んでいる」顧客にとっては、このアップグレードのメリットは大きいと、IBMのチーフ アーキテクトのSteve Will氏はブログ記事に記しています。
  • フルSQLサポート: IBMは、Db2 for iのことを、ANSI SQL規格のサポートに関して最も完全なリレーショナル データベースと謳うことがたびたびありました。IBM i バージョン7.5では、SQL規格の「フル サポート」と謳っています( Oracleよ、これでどうだ!)。

IBMは、2019年のIBM i 7.4のリリースで、Db2 Mirrorを公開しました。7.5では、IBMは以下の新機能の追加により、継続的な可用性サービスを強化しています。

  • 読み取り専用モード: 顧客は、Db2 Mirrorクラスターの2つのノードの1つに対して、アップデートが行えない読み取り専用モードで動作するよう指定できるようになりました。このモードは、トランザクション処理に影響を与えない形でビジネス インテリジェンスまたはデータ アナリティクス ワークロードを稼働するのに有用です。
  • 混合リリースのサポート: IBMは、顧客がDb2 Mirrorクラスターでバージョンの異なるオペレーティング システムを稼働する機能を正式にサポートするようになりました。Db2 Mirrorは7.4を必要とするため、これまでは可能なことではありませんでした。しかし、7.5が登場したことから、顧客は、両方のオペレーティング システム リリースを稼働することができ、さらには、Db2 Mirrorを使用して7.5への「ローリング アップグレード」を実行することもできるようになります(この機能は、IBM i 7.5および7.4 TR6の両方でサポートされます)。

セキュリティは、現在のところ、IBMにとっての大きな優先課題です。これは、COVID-19パンデミックによって拍車がかかったランサムウェアの大流行によるところもありますが、やはり、サーバーを適切に構成するということに関して、長年にわたってなおざりにされてきたせいでもあります。

  • パスワードの強化:パスワードを暗号化するのに利用可能な暗号化機能が強化されました。これまでは256ビットSHA1アルゴリズムが最大限でしたが、512ビットSHA2アルゴリズムをサポートするようになりました。また、パスワードがすべてのパスワード規則に適合するかどうかを管理者に知らせる新たなAPIが追加されました。これにより、認証に失敗したときに、ユーザーIDとパスワードのどちらを間違えたかハッカーが簡単に見分けられないようになりました。
  • デフォルトの*PUBLIC権限: IBMは、システム上の数多くのオブジェクトのデフォルト設定を変更しました。*PUBLIC権限で出荷されたオブジェクトに対しては、管理者が*CHANGE権限を要求するだけではなくなりました。それらのオブジェクトは*USE権限を持つことが必要となります。「これによって挙動が大きく変わることはなさそうです」とWill氏は記しています。「しかし、監査ははるかに簡単になるはずです。」
  • また、デジタル証明書マネージャー(DCM)もいくつかの点が強化され、たとえば、IFSパスおよびファイル名の入力を不要にする新たなボタンや、オブジェクト署名ストアおよびオブジェクト署名に関連するワークフローのオートメーションなど、ユーザー エクスペリエンスが向上されています(この機能は、IBM i 7.5および7.4 TR6の両方でサポートされます)。

これらのセキュリティ設定の変更は、IBM i におけるセキュリティの現状の改善を目的にしたものだと、IBM i プロダクト マネージャーのAlison Butterill氏は述べています。

「私たちは実際に、開発チームが言うところの、IBM i を「安全・安心」にすることを目指して取り組んでいます」とButterill氏は『 IT Jungle』に述べています。「私たちには、最もセキュアにすることができるプラットフォームの1つが常にあります。ここで取り組んでいるのは、セキュアにするための作業をより簡単に行えるようにする、さらなるツールおよびサービスを提供することです。」

その他の7.5での新機能

他にも、IBMは、IBM i オペレーティング システムの数多くのサブコンポーネント、およびIBM i とともによく使用されるLPP製品ファミリーのアップデートを行っています。また、IBM i 7.5には、IBM i 7.5でのみ使用でき、IBM i 7.4 TR6では提供されない機能もいくつか追加されています。それらの機能を以下に示します。

  • 年が2桁の日付フォーマットのアップデート。これまでの日付範囲は1940年~2039年でした。IBMは、年が2桁の日付フォーマットの制限範囲を、2039年から2069年へ延長しました。「100年間にわたる日付範囲の終わりに近付くにつれて、多くの顧客が少し不安を感じ始めていたようです」とButterill氏は述べます。
  • アトミック メモリー アクセス用の組み込み関数が加わった新たなC/C++コンパイラー。
  • オブジェクト保管(SAV)コマンドおよびQsrSave APIのASYNCBRINGパラメーターの新たなデフォルト値。これによってIFSデータ保管のパフォーマンスが向上するはずです。
  • ユーザー・プロファイル復元(RSUSRPRF)コマンドのアップデート。
  • IFS復元での進行状況メッセージ。
  • SNMPv3機能強化のサポート。
  • TCP選択確認応答(SACK)のサポート。
  • IBM Tivoli Directory Server for i(LDAP)のサポート。
  • DNS、FTP、およびSMTP機能の様々な機能強化。

また、IBMは、7.5およびIBM i 7.4 TR6の両方に共通する、以下のような新機能も提供しています。

  • 新たなRPGコンパイラー機能。SND-MSGおよびON-EXCP命令コードなど。
  • 数々の新たなIBM i サービスおよびSQLサービス。
  • 統合Webサービス(IWS)エンジンの機能強化。REST API呼び出しごとのサポートされるパラメーターの拡張、および新たなロギング機能など。
  • HTTP要求を使用してWebサービスを公開または使用するための新たなQSYS2ベースの関数。RESTサービスでの組み込みSQLの使用など。
  • ZLIBのサポートによるデータ圧縮の改善。
  • WildFly、Eclipse Jetty、およびApache Tomcatなど、代替となり得るオープンソースWebアプリケーション サーバーのサポートの発表。
  • クラスター リソース グループ(CRG)の切り替えを実行するのに掛かる時間の短縮。
  • Power9サーバーでの最新世代のU.2フォーム ファクターのPCIe4 NVMeディスクのサポート。
  • 16Gbおよび32Gbアダプターなど、高帯域幅ファイバー チャネル アダプターでのIOPS(1秒当たりの入出力要求数)の向上。
  • 新たなIBM Navigator for iの機能強化および新機能。SNTP、SMTP、VPN、IKE、LDAP(およびその他の様々な3文字または4文字略語で表される機能)などに関するもの。
  • CCSIDのアップデート。
  • Access Client Solutions(ACS)1.1.9.0のリリース( 先月のこちらの記事を参照)。
  • BRMSのアップデート。
  • PowerHA SystemMirrorの新リリース。遠隔地ミラーリングでの圧縮をサポート(6月24日にリリース予定)。

IBM i 7.4 TR6の発表レターでは、出荷日は5月24日と記されていましたが、IBM i 7.5の出荷日は、今号のニュースレター出稿時点では確認できませんでした。IBMから新リリースやTRが発表されるときにはいつものことですが、整理・要約すべき事柄がたくさんあります。今回発表された新機能については、今後の記事でそれぞれ詳しく取り上げる予定です。

あわせて読みたい記事

PAGE TOP