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IBMi海外記事2022.09.28

Merlin開発フレームワークが新たにIBM i 7.3をサポート

Alex Woodie 著

IBMは、5月にIBM i 7.5のリリースの一部として導入された新たなアプリケーション開発フレームワークであるMerlinで、IBM i バージョン7.3をサポートすることを決めました。この決定により、Merlinの潜在的なユーザー ベースの拡大が促されることになりそうですが、その一方で、オペレーティング システムをアップグレードしようとする意向に水を差されることにもなりそうです。

Merlinは、IBM i 開発者が新たなILEプログラムをゼロから作成したり、既存プログラムをモダナイズしたりするために設計された、 IBM の新たなソフトウェア パッケージです。 正式名称を「 Modernization Engine for Lifecycle Integration(ライフサイクル統合のためのモダナイゼーション エンジン)」というこのソフトウェアは、Red Hat OpenShiftコンテナを介してPowerサーバー上で稼働するようにパッケージ化され、Webブラウザを通じてアクセスされる、IBM、 Red Hat社、および ARCAD Software 社のオープンソースおよびプロプライエタリ ツールの組み合わせをベースとしています。

具体的には、Merlinでは、 Microsoft社オリジナルのVS Codeのオープンソース バージョンである Eclipse Theia と、Kubernetes環境でIDEの作成、管理、およびオーケストレーションを行うワークプレイス サーバーを提供する Eclipse Cheが使用されています。また、Merlinには、RPG変換ツール、影響分析ツール、IBM i とGitを統合するためのツール、およびビルド管理ソフトウェアなど、ARCAD社からのいくつかのツールも採用されています。IBMは、独自の統合コードを開発して、CI/CDパイプライン向けのソフトウェアである Jenkinsのサポートを組み込みました。

Merlin

軽量なブラウザベースの統合開発環境(IDE)であるMerlinは、長年にわたってIBMの公式な開発ツールであった、機能豊富なJavaベースのIDEである Rational Developer for i (RDi)の代替となる製品です。RDiには多くの愛好者がいる一方で、このソフトウェアを使いたがらないユーザーもIBM i コミュニティにはたくさんいます。Liam Allan氏によるオープンソースの Code for IBM i (同じくVS Codeをベースとしています)などの代替ソリューションが求められるようになったのは、そのようなことも一因だったようです(ちなみに、つい先日、Allan氏はIBMの一員に加わりました。Allan氏の移籍の詳細については、今後の記事をお待ちください)。

IBMは、Merlinを、新たなユーザーを獲得するだけでなく、 モダンな手法を使用したモダンなアプリケーションの開発を始めてもらうきっかけにしたいと考えています。これは、VS CodeのようなWebベースのIDEを使用すること、そしてGitやJenkinsに象徴されるようなDevOpsおよびCI/CDテクニックを使用することを意味しますが、これらはすべて、Merlinで可能になります。Merlinが、Red HatのKubernetesディストリビューションによって管理されるDockerコンテナでデプロイされるというのも、モダンであることの現れと言えるでしょう。

Merlinは、5月初めにIBMがIBM i 7.5および7.4 TR6を導入した際の 一番の呼び物でした。多くのIBM i の専門家が、IBMの春の発表で提供された一番の新機能として、Merlinを大きく取り上げました(IBMは、春と秋にIBM i の大型の発表を行うのが通例です)。同月下旬にニューオーリンズで開催された COMMONのPOWERUpカンファレンスでも、Merlinは、多くのセッションのテーマとなっていたことは言うまでもなく、 多くの場面で話題に取り上げられました。

製品発表の時点では、IBMは、MerlinをIBM i 7.4以降に制限していました。これは驚くには当たらないことでした。当初は、2016年に公開され、来年末まで公式にサポートとされているIBM i 7.3向けのTRをリリースしなかったからです(IBMは、 その後、実際にIBM i 7.3 TR12をリリースしましたが、TRという名前が付いていても、それはTRではないとしています)。

主力にしている IBM i のバージョンは何ですか?
HelpSystems社の「IBM i Marketplace Survey」によれば、IBM i 7.3の人気は、リリース以降、年々高まっているようです。

しかし、どうやらIBMは、Merlinで7.3を除外することを思い直したようです( 先週の発表レター を参照)。これはIBM i のショップにとって朗報です。重要なものと位置付けられる新製品を使用する機会を得ることができ、さらには、モダンな手法でのモダンなアプリケーションの開発を始めるきっかけにもなり得るからです。

これはIBMにとっても良いことです。新製品の潜在的なユーザー ベースの大幅な拡大が見込まれるからです(ちなみに、この製品は無償ではありません)。IBM i 7.3は、このオペレーティング システムの、群を抜いて最も幅広く使用されているリリースであり続けています。 HelpSystems社の「2022 IBM i Marketplace Survey」によれば、2021年には、7.4のほぼ2倍のユーザー数だということです。7.3は、過去4年間にわたって最も人気のOSリリースであったことが同調査で示されています。実際、7.3の導入数は、2016年に利用可能になって以来、より新しいリリースが市場投入されても、毎年増加してきました。

しかし、この方針変更には潜在的なマイナス面もあります。それは、IBMが当初Merlinを7.4および7.5に制限することにした理由を反映しているようです。7.3のサポートが加わることで、Merlinの潜在的なユーザー ベースはほぼ倍増する一方で、7.3から7.4または7.5へアップグレードする理由として、Merlinが挙げられなくなることにもなります。

IBMは、鼻先にニンジンをぶら下げるようにして、インストール ベースを前に進ませようとすることで知られています。ところが、このケースでは、IBMは後戻りしました。それは、特にMerlinを使用する目的でアップグレードしようとする7.3ユーザーの思いの背後にあった元々の前提が間違いだったからなのかもしれませんし、あるいは、IBM i 7.3のユーザー ベースの大半を除外できないほどに、Merlinを介してモダナイゼーションを可能にすることの潜在的なメリットが大きかったからなのかもしれません。ちなみに、IBM i 7.3は、現在、メインストリーム サポートの対象であり、7.3 TR12のリリースでは、新たなPower10プロセッサーのサポートも加わっています。

もしかしたら、その両方の理由かもしれません。いずれにせよ、そのユーザー ベースは、おそらくMerlinのおかげでより強力になるでしょう。そして、そのことは、ビジネスにとっても良いことであり、IBM i コミュニティにとっても良いことなのです。

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