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IBMi海外記事2023.08.23

System/36とSystem/38の珊瑚婚式に寄せて

Timothy Prickett Morgan 著

AS/400は、System/36とSystem/38との結婚によって、1988年6月21日に、二人の間に生まれた初めての子供と言うこともできます。そう考えると、今週は、AS/400が35回目の誕生日を迎えるだけではなく、System/36とSystem/38が 珊瑚婚式を迎えるということにもなります。しきたりに倣うとすれば、お祝いには翡翠彫刻か何かをIBMロチェスターに贈ると良いようです。

AS/400(Power10ハードウェア上で稼働するIBM iプラットフォームとして存続しています)は、珊瑚礁で座礁しているわけでも、疲れ切っているわけでもなく、自分のすべき仕事をひたすらし続けているだけです。その仕事は、解決すべき問題を実際に抱えていて、決して自らを忙しくするために新たなハードウェアやソフトウェアの購入しているのではない、保守的であるが同時に革新的な企業のニーズに応えるべく、新しいものを統合し、進化するという仕事です。彼らはもう十分なくらい働きました。ご苦労様でした。

IBMの異なる5系統のミッドレンジ システム製品ラインの統合を目指すもあえなく挫折した「Fort Knox(フォート ノックス)」プロジェクトの残骸から「Project Silverlake(プロジェクト シルバーレイク)」が生まれてから、ずいぶん長い年月が経ちました。Fort Knoxプロジェクトは、1980年代半ばに自重に耐え切れずに崩壊し、IBMロチェスターは、次世代製品がないという窮地に立たされることになります。それはちょうど、Digital Equipment Corp社およびHewlett Packard社がそれぞれのプロプライエタリ ミニコンピューターに非常に積極的だった時期であり、また、Sun Microsystems社、Data General社、Hewlett Packard社からの初めてのUnixシステムが登場した時期でもありました(IBMからはありませんでした)。

大変な時期でしたが、当時のことは、Silverlakeシステムの開発について調べていて偶然見つけた本に詳しく描かれています(Silverlakeシステムは、Application System/400としてローンチされました。『The Four Hundred』では、システム名の変更に対応しながら、創刊以来34年間にわたってApplication System/400を扱ってきました)。『 The Silverlake Project』と題するその本は、1992年にRoy Bauer氏、Emilio Collar氏、およびVictor Tang氏によって著わされたものでした。いずれもIBMロチェスターに勤務し、Fort Knoxの残骸とSystem/38の創造性とSystem/36の使い勝手の良さから、わずか28か月でAS/400の猛ダッシュ開発をまとめ上げた、多くの有能なエグゼクティブたちの一員です。これは興味の尽きない本であり、中には私自身、知らなかったような話もいくつか描かれています。

AS/400およびその基礎となるシステム ハードウェアのアーキテクチャーが、ユニークであって卓越したものであることは前々から承知していたことです。私が十分に把握できていなかったのは、ちょうど、System/36が「オフィス オートメーション」向けのマシンとされていて、System/38が非戦略的とみなされていたように、AS/400が過酷な条件を課されていたことでした。1986年3月、Tom Furey氏がロチェスター研究所の開発部門長に任命され、時計は1988年6月に向かって時を刻み始めます。新たなマシンを世に送り出すまでに28か月の期間が与えられ、System/38のコンセプトをベースに新たなシステムを構築するべく2,500人のエンジニアとプログラマーが当てられました。これは、IBMメインフレームに比べても、単位スループット当たりで信じられないほど高い費用であり、なおかつ、System/36からのRPG IIアプリケーション、System/38からのRPG IIIアプリケーション、そしてAS/400モードで新たなネイティブ モードのRPG IVアプリケーションを稼働できるようにすることが求められました。ロチェスター要塞には、言ってみれば、専用のフォート ノックス連邦金塊保管庫が必要でした。

IBM本社ではやり手とされ、そうしたIBMミッドレンジ事業の立て直しのためにミネソタ州の大草原のトウモロコシ畑へと送られてきた、Tom Furey氏というよそ者リーダーの卓越したリーダーシップの下で、Silverlakeチームは、新たなシステムを設計、テスト、構築するまったく新しい方法を生み出し、非常に現実的な形で、IBMにとってのまさに最高傑作を見せつけることとなります(現在に至っても最高傑作であるかもしれません)。この件にまつわる興味深い事情が数多く描かれていますので、AS/400マニアには、ぜひともお勧めの一冊と言えます。しかし、いくつか気になったことがあります。

私はAS/400およびその他のPower Systemsマシンだけでなく、高性能コンピューティングにも大いに関心があるため、私が読んでいて非常に興味深かったのは、IBMロチェスターが、Engineering Verification Engineと呼ばれるゲート アレイ シミュレーター スーパーコンピューター(カスタム チップ ロジックを使用して作成され、Xilinx社およびAltera社によるFPGAの商用ローンチより前から存在)を利用して、両者の製造に先立って、Silverlakeプロセッサーだけでなく、システム全体のシミュレーションおよびテストを行っていたことでした。これによってIBMは、テスト用の1台や2台のプロトタイプだけでなく、不具合がほとんどない何千ものプロトタイプを作成することが可能となり、製品発表日の1年以上前にはSilverlakeマシンがソフトウェア パートナーや顧客の手に渡っていたのです。製品発表日時点で、AS/400で稼働するアプリケーションが2,500種類を超えていたのにはそういう経緯があったということです。

Silverlakeプロジェクト全体が前倒しされ、あらゆる関係者(ハードウェア設計者、コンパイラーおよびデータベース ソフトウェア開発者、アプリケーション ソフトウェア開発者、マーケティングおよびセールス担当者)が、マシンの設計およびテストに招き入れられました。これによって設計が向上するとともに、プロジェクトが本当に成功する可能性が高くなりました。プロジェクトの成功は、当初から確実視されていたわけではありません。Furey氏でさえ、成功の確率は1,000分の1程度と考えていました。Furey氏は、ロチェスター チームの士気を低下させるのではなく(Fort KnoxはIBMミッドレンジの誰にとっても重荷となりました)、意欲を起こさせるために、そのことをロチェスター チームに率直に打ち明けていました。彼のチームは、まったく新しいやり方を編み出すと、失敗の確率がいかに下がり続けるかを示す手法を生み出しました。

なるほど、AS/400は、エミュレートされたSystem/36アプリケーションを稼働できる、めかし込んだSystem/38であったかのもしれませんが、そのマシンを製造販売するプロセス全体は、まるで改造車のように高度にチューン アップされました。あるいはロケットのように。そして、私たちが今週、お祝いをすることができているのは、発明の母となる必要性を、あの時にロチェスター要塞が受け入れたからなのです。彼らは、要塞の堀に掛かる跳ね橋を下ろして、サプライ チェーン パートナー、ソフトウェア パートナー、および顧客をSilverlakeに招き入れたのです。それによって、最新のコンピューティング システムのIBM初のグローバル ローンチだけでなく、同社初のグローバル ロールアウトを行えるようになったのです。

IBMはマーケティングが十分ではないという声がよく聞かれます。しかし、言わせてください。1986年、1987年、1988年には、マーケティング部門は、世界中の多くの市場をセグメント分けして、ターゲットを絞る、まったく新しい方法を編み出していたのです。これこそが、AS/400を、同社の長い歴史の中でも最も急成長する事業にした要因なのです。IBMは、発売後の最初の18か月で、1981年にはるかに広い市場に投入されたIBM PCよりも、多くのAS/400を販売しています。少し考えてみてください。その理由は、IBMロチェスターは決して、System/36やSystem/38のように、単に新たなマシンを生み出して、販売担当に押し付けて世に出して、顧客がその新技術でどんなことをするか確かめたわけではなかったからです。IBMロチェスターは、マシンにやってもらいたい、マシンにやってもらう必要があることを行うマシンを作り出したのです。すなわち、マシンが行うのは、 IT部門ではなく、会社全体を稼働することです

Silverlakeは驚くべき偉業でした。そして、今日に至ってもそうだと言えます。そして、その成功の中心には、IBMロチェスターが「Ten Silverlake Principles(シルバーレイク10原則)」と呼んでいたものがあります。以下の10原則です。

  • ビジョンを持つリーダーを任命する。
  • 適切な人材を登用し、適切なミッションを与えてビジョンを具体化する。
  • スタッフに権限を与える。
  • クロスファンクショナルな作業チームを活用する。
  • 市場をセグメント分けし、その中の適切なセグメントに対して、製品をポジショニングする。
  • 市場およびビジネスを調査し、ビジネス モデルを確立する。
  • 優先順位を設定し、リソースを割り当てる。
  • 並行プロセスを採用し、1回目できちんと処理することによって、時間の障壁を打ち破る。
  • 外部、特に顧客と協力関係を築く。
  • 顧客の期待を明確化し、その期待以上のものを継続的に提供し続ける。

当時の市場は過酷なものでした。もっとも、今日も同様ですが。そしてその後者。もしかしたら、Power10に関してはそのような状況がさらに進むかもしれません。Power11およびPower12については、私たちはまだ、希望を抱いています。

System/38とSystem/36のご結婚35周年、おめでとうございます。暑い夏至の日にミネソタ州ロチェスターで産声を上げた元気な赤ちゃんは、今や立派に成長しています。

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