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IBMiコラム2023.10.25

IBM i のウンチクを語ろう
~ その88:次世代に伝えるIBM i

安井 賢克 著

皆さん、こんにちは。IBM i に携わる方に、システムに関して現在どのような課題を抱えているのかアンケートを取ると、最も多くの票を得るのは「後継者の育成」ではないでしょうか。長年言われ続けてきたにも関わらず、IT人材不足に対して決定的な打開策が見当たらないことも背景にあるように思います。そもそも日本全体で見ても、IT人材の不足数は2015年の17万人から、2025年には43万人にまで拡大・悪化するだろうとDXレポートでは指摘しています。人材育成はIBM i だけでなく業界全体にとって「焦眉の急」となっているということです。メーカーであるIBMや販売店も手をこまねいていたわけではありません。ただその対策は散発的だったり、課題との直接的な関係が不透明なままに、製品やサービスの営業活動の延長に過ぎないと見なされたりするためか、今一つ盛り上がりに欠けているようです。

そもそもユーザーは何を必要としているのか、製品提供側は何をするべきなのか、という点についての理解が個人によってばらついているのではないでしょうか。私自身は長年製品提供側にいるわけですが、誰もが最初に思いつくのは、IBM i 未経験者はIBM i を学ぶためのわかり易い材料を求めているに違いないし、実際にアンケートを取るとその点を指摘する声が多い、だから未経験者向けに技術情報をまとめた文書を作ろうというものです。これ自体に異存のある方はいらっしゃらないでしょう。意欲ある人達が何とかしようと志しますし、私自身も相談を受けたこともあります。その意味ではIBM i のコミュニティもなかなか捨てたものではありません。ただ漠然としているので、もう少し具体化してゆく必要がありそうです。ある程度の期間内に形あるものに仕上げたいので、作業負荷とのバランスも考えなくてはなりません。

文書の想定読者はIBM i 未経験者だとしても、IT経験が全く無い方までも対象に含めるべきでしょうか。それができた方が望ましいのは間違いありませんが、説明は難しくなり、文書量は膨れ上がり、完成までの時間も長引きそうです。そこで取り敢えずは多少なりともIT経験のある方を対象に絞ろう、必要ならばその後のフェーズ2で対象読者を拡大するための改修を行おう、と微調整します。情報を提供する側の事情に過ぎないとも言えますが、現実的な落し所も考えておかなければなりません。おそらくここまでは比較的スムーズに決まります。

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どのような話題に言及するのかも決めなくてはなりません。技術情報にも運用と開発という大きな括りがあります。カバーするべきは両者なのか、どちらか片方だけでも当面は何とかなるものでしょうか。一方に絞り込んだところで、作業負荷は膨大なものであることに変わりはないかもしれませんので、例えば「セキュリティ」のように、特定の話題に範囲を絞り込むのは妥当でしょうか。ただ、範囲を絞り込み過ぎると役立つシーンが限定されるので、作ったところであまり参照されません。ある程度の網羅性は維持しなければならないでしょう。

カバーする範囲をどのように設定するにしても、初心者向け情報の「深さ」「詳しさ」の目安をどのように考えるべきでしょうか。良かれと思って「詳しさ」を追求したために、できあがったものが製品マニュアルとあまり違わないものになったとしたら、わざわざ作る意味はありません。そして手間暇かけて良いものを完成させたとしても、進化する製品機能に追随してゆかなければ、せっかくの活動が一過性のものに終わってしまう可能性もあります。末永く参照してもらえるようにするためには、継続的に文書を保守してゆくための組織・体制を作ることが前提になるのでしょうか。情報整備・資料作りの域を超えてしまいそうです。

私自身も幾度となくこのような議論に遭遇していますが、しっくりする答えに到達するのを見たことはありません。想定読者を決めるところまでは良いのですが、カバーする範囲とその深さ、さらには継続性に至るまで、考えれば考えるほど方針に迷いが生じます。答えの無い命題として闇に葬ってしまいたくもなります。

ここで目を転じてうまく若手が育っているケースを見てみましょう。少数派ではありますが、私達がこうあって欲しいと思う事例があるのも事実です。IBM i に関わるようになったのはここ数年という方であっても、製品知識が全く無い状態から始めて、自力で製品マニュアルを読みこなしたり、各種の公開資料から学んだりされた方もいらっしゃいます。滅多にないことだと感じたので、何故そこまで前向きだったのかを聞いてみると、動機は意外にシンプルでした。IT経験は全く無かったのでシステムに対する先入観は何も無かった、そもそも他システムは知らないのでITとはこういうものだと思っているに過ぎない、ビジネス用システムとしてよく聞く製品名だったのでどんなものなのか興味があった、などといった声が聞かれます。

彼等・彼女等は何か特別な資料を持っていたわけではありません。IBMや販売店が公開する資料とか、製品マニュアルが主な参照情報です。あとは数少ないですが、草の根的に発信されているQiitaなどの情報も頼りになるようです。草の根情報の量は圧倒的に違いますが、オープン系についても事情は似たようなものではないでしょうか。IBM i の一般向け書籍が無いことを指摘する声が一時よく聞かれましたが、テクノロジーの進化に対するタイムラグが生じ勝ちなので、今ではオープン系でもその必要性はほぼ無くなっているのではないかと思います。

黒画面だとかレガシーだとかいった言葉に否定的な響きを感じ取るのは、むしろIBM i 経験者の方なのかもしれません。システムを評価するには、機能がビジネス要件を満たすことができるのか、それが妥当なコスト、高い品質、適正なタイミングでなされるのか、を見れば良いのであって、「雑念」に囚われてはいけないはずです。次の世代を育てようとする際に、私達はまず自らを点検しておくべきなのでしょう。

初心者向け資料の狙いを、技術情報の提供とするのではなく、学習意欲の動機付けにする、という方針で臨む案が考えられそうです。最新の技術情報は随時製品マニュアルに反映され公開されてゆきますので、重複になる作業には手を出さないと割り切ることにします。先入観無くシステムを評価し興味を持ってもらうことができれば、その先は個人の好奇心や探求心を信じてみようというわけです。もちろんこれで万事思惑通りになる保証はありませんが、やってみる価値はあるでしょうか。

一方で、世間のIBM i に対する関心はどこにあるのかを認識しておくことも重要です。私達は当e-BELLNET.comサイトへのアクセス状況を分析する中で、どのようなキーワード、どのようなカテゴリの記事が関心を呼ぶのかを、常に注視しています。最新機能の紹介記事もそれなりに参照されるのですが、ブームに左右される傾向がある一方で、安定的にアクセス数が上位に来るのは基礎的な製品情報です。必ずしも最新情報にはこだわらないけれども、前提知識無く読むことができる、IBM i のアーキテクチャや、それが採用されている技術的・ビジネス的背景を解説する記事です。どのような知識・経験をお持ちの方が読んでいるのかまでは正確に把握することはできませんが、初心者がIBM i を学んだり、ベテランが初心者向けにIBM i を説明しようとしたりする際に、使い勝手が良い文書であることは間違いありません。当サイトにも掲載されているのですが、散在していたり、致し方無いことではありますが、時間の経過と共に底の方に沈んでしまったりしているのが実情です。これらをあらためて体系化しながら、目立つところに配置すれば効果があるのかもしれません。

当サイトの「IBM i とは」というカテゴリの文書は、この仮説に基づいた取り組みです。過去の散在している文書に全面的に手を入れながら、IBM i のアーキテクチャやその背景を解き明かす文書として目立つ場所に集約し、IBM i を学ぼうとする方が、直ぐにアクセスできるようにしました。当コラム執筆時点では未完成の状態にありますが、章単位で文書を随時追加掲載しながら内容の充実を図り、IBM i のアーキテクチャと製品の位置付けを学ぶ資料としての決定打に育て上げたいと考えております。

これを活かしてIBM i に関心を持つ方が増え、その中からIBM i を技術的に極めようという方が一人でも多く生まれるならば、大変に喜ばしいことです。万が一効果が認められなかったら、また別の手を考えるしかありません。結果がどうあろうと、私達は後継者問題を放置するわけにはいかないのですから。

ではまた

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著者プロフィール

パワーシステム・エバンジェリスト

安井 賢克
やすい まさかつ

2017 年 11 月付けで、日本アイ・ビー・エム株式会社パワーシステム製品企画より、ベル・データ株式会社東日本サービス統括部に転籍。日本アイ・ビー・エム在籍時はエバンジェリストとして、IBM i とパワーシステムの優位性をお客様やビジネス・パートナー様に訴求する活動を行うと共に、大学非常勤講師や社会人大学院客員教授として、IT とビジネスの関わり合いを論じる講座を担当しました。ベル・データ移籍後は、エバンジェリストとしての活動を継続しながら、同社のビジネス力強化にも取り組んでいます。

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